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法人化するメリットデメリットは?後悔しないタイミングや条件も解説

法人化するとさまざまなメリットがありますが、デメリットのほうが大きく感じる人もいるかもしれません。本記事では、個人事業主が法人化するメリット・デメリットのほか、法人化の基礎知識や後悔しないタイミング、必要な手続きを解説します。

個人事業主としての仕事が軌道に乗ると、「そろそろ法人化したほうがよいのでは?」と悩むこともあるでしょう。

法人化して会社として認められると、事業でできる幅が広がったり税制上の優遇が受けられたりするなど、多くのメリットがあります。一方で、個人事業よりもやらなくてはならないことが増えるなど、人によっては法人化するデメリットがより大きい場合もあるかもしれません。

本記事では、個人事業主が法人化するメリット・デメリットを詳しく解説します。法人化とはなにかという基礎から、法人化に必要な手続きまで解説するので、税金や法律に詳しくない人もぜひ参考にしてください。


法人化するとは

法人化とは、簡単にいうと個人事業主が新しく会社を設立することで、法人成りと呼ぶこともあります。

一般的な会社設立と異なるのは、新規事業を始めるのではなく、個人事業主としておこなっていた事業を引き続きおこなう点です。事業内容はもちろん、個人事業で得た資産や負債に関しても新しい会社にそのまま引き継がれます。

2006年の法改正によって、法人化はかなり挑戦しやすくなりました。資本金や役員の制限がなくなり、副業しているサラリーマンや個人クリニックの開業医など、さまざまな人が法人化にチャレンジしています。


個人事業主が法人化する7つのメリット

個人事業主が法人化すると、税金や社会活動の面で多くのメリットがあります。ここでは、法人化による7つのメリットを順に紹介します。


法人税の適用で税率の上限が下がる

法人化すると、個人事業主で働くよりも税金の負担が少なくなる場合があります。次の表をご覧ください。

所得金額

所得税率

会社の収益

法人税率

~194万9,000円

5%

年800万円以下の部分

15%
(一部19%)

195万~329万9,000円

10%

330万~694万9,000円

20%

695万~899万9,000円

23%

年800万円超の部分

23.20%

900万~1,799万9,000円

33%

1,800万~3,999万9,000円

40%

4,000万円~

45%



法人化すると所得税の代わりに法人税を納めます。所得税は、収入が多くなるとその分税率も上がる累進課税制度が導入されており、その税率は5〜45%です。一方法人税は、会社の規模や種類によって税率が統一され、23.2%が上限とされています。

つまり、個人事業主の収入によっては、法人化して法人税の税率が適用されたほうが税負担が少なくなります。事業を拡大して収益を増やしていきたいと考えているなら、法人化したほうが税金負担が少なくなるのでメリットが大きいでしょう。


経費にできる項目が増える

もう一つ節税効果が高まる特徴として、法人化すると経費にできる項目が増える点が挙げられます。


個人事業主から法人化することで、経費として認められるようになる費用は次のとおりです。

  • 経営者が得る収入(給与)

  • 家族や親族への給与

  • 従業員の退職金

  • 生命保険料

  • 従業員社宅の家賃


特に、自身の収入を給与とみなすことで経費扱いできる点は、個人事業主との大きな違いです。給与として扱うことで、サラリーマンと同様に給与所得控除も受けられます。また、生命保険料は契約者と保険金の受取人を会社で契約すると、全額経費として計上が可能です。


社会保険に加入できる

社会保険に加入できる点もメリットでしょう。

法人化すると、経営者も含めた従業員に健康保険や厚生年金保険など、社会保険への加入が義務付けられます。保険料負担が生じるため、会社としては一見デメリットに感じられるかもしれません。しかし、老後の年金受給額など保障面のメリットは大きいです。

個人事業主は国民年金保険に加入しますが、厚生年金に比べて受給額が少なくなります。老後の生活を考えると、社会保険に加入したほうが備えになるでしょう。

さらに、社会保険を完備できる福利厚生があれば入社希望者が増え、人材確保にも期待が高まります。


赤字の繰越期間が最長で10年になる

事業で損失があった場合は、損失分を繰り越して所得から控除することができる仕組みがあります。この制度で繰り越せる期間は、個人事業主の場合で最長3年ですが、法人化すると最長10年に延長が可能です。

会社の経営になんらかのトラブルがあり、大きな損失を出した場合には、欠損金を申告することで10年間法人税の負担を軽減することができます。この制度を欠損金の繰越控除といい、申請すれば払いすぎた税金の還付を受けることも可能です。

個人事業主に比べて長い期間控除が受けられるので、大きな損失へのリスクに備えられます。


社会的な信用度が向上する

法人化して会社として認められると、社会的な信用度が向上するメリットもあります。

法人は、経費項目が幅広かったり税率が一定だったりするなどの理由から、個人事業主よりも廃業しにくくなると考えられています。また法人化するには、資金集めや諸手続きなどいくつかの手順を踏む必要があり、法人化することで経営がしっかりしていると判断されやすいです。

より社会的な信用度が高いと考え、個人事業主を避けて法人のみと取引をおこなう企業もあります。法人化によって取引の継続がしやすくなるメリットもあるでしょう。

さらに、金融機関から事業目的の融資を受けやすい利点もあります。


事業の失敗は有限責任になる

事業でトラブルが起こった場合の責任は、法人化したほうが負担が軽減されることが多いです。

例えば経営が悪化し、取引先に対して未払いが発生した場合、個人事業主はその全額を個人の債務として背負うことになります。一方法人は、基本的に債務責任は出資額の範囲内に限定されます。会社として負債を背負うので、経営者個人に賠償責任は問われません。

ただし、個人保証が付与された借入金など、一部の負債は個人に課せられる場合もあるので、契約時には規約を入念に確認することをおすすめします。


決算期は自由に決められる

法人の場合は、決算の時期も自由に決めることができます。個人事業主は確定申告の都合上、毎年12月31日を締め日として決算をおこないます。法人化すると自分で決算期を決められるので、都合のよいタイミングに設定可能です。

12月が繁忙期になる仕事なら、法人化して繁忙期と決算期をずらすことで、慌てずに決算処理をおこなうことができます。年度に合わせて3月や4月を決算期とする会社や、繁忙期を避けて9月に設定する会社などさまざまです。法人の都合に合わせて決算期を設定しましょう。


個人事業主が法人化する3つのデメリット

法人化にはメリットばかりでなくデメリットもあります。ある程度事業が発展しても、デメリットを理由に法人化しないことを選ぶ人も多いです。では、個人事業主が法人化する3つのデメリットを順にみてみましょう。


事務手続きの負担が増える

法人化することで事務的な業務が複雑化し、負担が増える点はデメリットです。特に経理に関わる業務は複雑になりやすく、負担に感じる人も多いでしょう。

法人化すると、法人税を正しく納めるために法人税申告書を作成します。作成するためには会社の決算をおこない、さまざまな経費の計算書を作るなど、多くの手順を踏む必要があります。このような理由から、個人事業主の確定申告よりも会計業務の負担が大きくなるでしょう。

他にも、社会保険に関する手続きや雇用者に関する手続きなど、法人成りすると必要な事務手続きが増えます。通常業務が回らなくなることを避けるために、別途事務スタッフを雇わなければならない場合もあるでしょう。


法人化のために費用がかかる

個人事業主は無料で開業手続きができますが、法人化するとなると費用が必要です。株式会社の場合、手続きで最低15万円ほどの費用がかかります。加えて資本金の用意も必要なので、手元にある程度の資金がなければ法人化は難しいかもしれません。

まず、法人化するには会社の決めごとをまとめた定款の認証を受け、その後法人登記をおこなう必要があります。定款認証の手数料は資本金額に応じて3〜5万円、登録免許税は15万円または資本金額×0.7%のいずれか低い金額です。

資本金は、法律上は1円以上あれば会社を設立できます。しかし、社会的な信用の問題や設立後の運転資金を考えると、運転資金の3ヵ月分程度は用意したほうがよいとされています。法人化にかかる費用の目安として参考にしてください。


起業に必要な資金について解説した次の記事もおすすめです。

起業に必要な資金で知っておくべき基本!目安や調達方法とは


赤字でも法人住民税の負担がある

事業で赤字が出た場合には、法人税から10年間繰り越しながら控除できます。しかし控除可能なのは、事業の収入に対して課せられる法人所得税の部分であり、法人住民税に関しては赤字でも負担の軽減はありません。

法人住民税とは事業所を構える自治体に支払う税金です。資本金や従業員数といった会社の規模に応じて納税額が決まるので、売上が悪く赤字の年でも支払わなければなりません。

個人事業主は、赤字の年は住民税額も所得に応じて減額しますが、法人になると所得に関係なく法人住民税を納める必要があります。法人化によって、支払う必要のなかった税金が発生する場合もあることは念頭に置いておきましょう。


法人化に必要な手続き

続いて、法人化に必要な手続きを解説します。個人事業を継承して会社を設立するには、通常の法人化手続きに加えて個人事業の廃業手続きや資金の移行手続きなどが必要です。詳しくみてみましょう。


基本事項・定款を作成

まず、設立する会社の基本事項や定款を定めることから始めましょう。基本事項とは、会社の形態や会社名といった基本内容のことで、定款は法律上にも認められる会社の規則のことをいいます。


それぞれ次のような内容の記載が必要です。

基本事項

定款

・会社の形態(株式会社、合同会社、合資会社など)
・会社名(商号)
・事業目的
・本店(本社)所在地
・役員構成
・資本金額

・事業目的
・会社名(商号)
・本店(本社)所在地
・資本金額
・発起人の氏名や住所
・現金以外の出資
・発起人の報酬や利益
・設立にかかる費用 など


このような内容を決定したら、管轄の公証役場で定款認証の手続きをします。電子ファイルで作成した電子定款なら、認証にかかる収入印紙代4万円が不要なので経費削減になります。また、会社用の代表者印や銀行印、社名の印鑑も用意しておくと便利です。


定款について詳しく解説した次の記事もおすすめです。
定款の目的とは?事業目的の書き方と変更の仕方・具体例も紹介


法人会社の登記申請

定款の認証を受けたら、資本金の払い込みができるようになります。資本金を振り込んだら、管轄の法務局で法人登記をおこないましょう。


株式会社を設立する場合、法人登記には次の書類が必要です。

  • 登記申請書

  • 登録免許税分の収入印紙を貼付した台紙

  • 定款

  • 各役員の就任承諾書・印鑑証明書

  • 資本金の払い込みを証明できる書類

  • 印鑑届出書

他にも特別に登記したい内容があれば、テキストファイルを保存したCD-Rを持ち込むことも可能です。


個人事業の廃業手続き

個人事業と同じ事業内容・目的の法人を設立した場合は、個人事業の廃業手続きをおこなわなければなりません。内容や目的を同じくした事業を設立すると、双方の利益が相反するものととらえられて、会社法に違反する恐れがあるためです。


廃業手続きは管轄の税務署でおこないます。提出が必要な書類は次のとおりです。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書

  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書

  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書

  • 事業廃止届出書


また、管轄の都道府県税事務所に事業開始(廃止)等申請書も提出する必要があります。提出期限は書類や自治体によって異なるので、事前に調べておくと安心です。


財産や債務を移行

続いて、個人事業の財産や債務を会社に移します。財産(資産)の場合と債務の場合で移行方法が異なるので、次の表を参考にしてください。

財産(資産)

債務

・売買契約
・現物出資
・賃貸契約

・重畳的債務引受
・免責的債務引受


また、個人事業の名義で契約しているサービスなどを、法人名義に変更する手続きも忘れずにおこないましょう。


廃業するまでの事業の確定申告

廃業手続きをした年も、廃業以前の個人事業の収支は確定申告が必要です。課税事業者の場合は消費税の申告も忘れずにおこないましょう。

廃業した年の事業税は、その年の課税見込額を経費として控除することができます。これを事業税の見込控除といい、確定申告時に申請が可能です。詳しい計算方法については、国税庁租税公課(事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込控除)」をご覧ください。

また、法人化にともなって財産を移行した場合は、個人事業側に利益が出ることもあります。稀なケースですが、よく確認しておきましょう。


法人化で後悔しないタイミング・条件とは

法人化に適したタイミング・条件を探るなら、所得や売上の金額、今後の事業予定を考えるとよいでしょう。法人化が向いているタイミングを具体的に解説します。


所得が800万円超え

まず、個人事業の所得が800万円を超えたら、法人化を検討しましょう。

所得が800万円を超えると、会社にかかる法人税率は上限の23.2%です。個人事業の所得税率は900万円までは23.0%ですが、900万円から1,800万円までは33.0%とかなり高くなります。

事業の成長は予想が難しいものです。予想外の収益があり、思いがけず税負担が大きくなってしまうこともあります。個人事業の所得が800万円を超えそうになったら、早めに法人化を検討するとよいでしょう。


売上が1000万円超え

事業の売上高が1,000万円を超えたタイミングも、法人化を検討するよい機会といえます。

売上高が1,000万円を超えると課税事業者とみなされ、消費税の納税義務が生じます。課税事業者になるタイミングで法人化すると、消費税が最大2年間免除される特例を受けられます。これは大きな節税効果が期待できるでしょう。

消費税といえば、インボイス制度の導入も話題です。インボイス制度の導入によって、課税事業者になる必要がある人にとっても、法人化は消費税対策に効果があります。


事業を拡大予定

今後事業を拡大したい人は、売上や所得の基準を満たさなくても法人化したほうがメリットが大きいかもしれません。法人化すると社会的信用が向上し、さまざまな方面から融資が受けやすくなるためです。

例えば、金融機関からの融資も法人のほうが受けやすくなります。事業拡大には資金集めが必要ですが、融資を受けるには返済能力があると認められなければなりません。個人事業主は、法人に比べて事業の継続性や安定性をアピールすることが難しいため、金融機関の審査が下りない可能性があります。法人化したほうが金融機関からの資金集めがしやすくなるでしょう。

また、法人化すると補助金や助成金を申請できたり、株式会社は株式によって出資を募りやすくなったりするなど、資金調達の方法の幅も広いです。資金調達をしながら事業拡大を目指すなら、法人化したほうがよいでしょう。


法人化による業務負担を減らすポイント

法人化すると、経理などの事務手続きの負担が大きくなるデメリットがあります。この章では、法人化による業務負担増のリスクを軽減するポイントを解説します。


支払いに法人の口座・クレジットカードを利用

法人用の口座や専用のクレジットカードを作成すると、経費の管理が簡単になるのでおすすめです。

個人事業主の場合は、個人の銀行口座やクレジットカードを事業にも使用することが多いでしょう。しかし、法人化して経費にできる項目が増えて精算が複雑化すると、プライベートで使用したものの分別も困難になります。法人用の口座・クレジットカードを持っていると、そのような分別の必要がなくなり負担軽減になるでしょう。

また、法人用のクレジットカードによっては、付帯サービスが受けられるものも多いです。ポイント還元や空港ラウンジの利用権利、各種保険の付帯など、カード会社によって多様なサービスが受けられます。


業務のデジタル化

法人化にともなって、業務のデジタル化をおこなうことも負担軽減につながります。デジタル化とは、アナログでおこなっていた仕事をデータやオンラインでおこなうことです。例えば紙で管理していたものをデータ化することで、出先での閲覧や取引先との共有が可能です。

またデジタル化は、デジタル技術の導入によってサービスや商品に新たな価値を付け加えることも指します。IT技術を導入し、新しい顧客層を獲得するなどの効果が出ることもその一例です。これはDX(デジタルトランスフォーメーション)の手段としても注目されています。

業務をデジタル化し、業務負担の軽減や新たな顧客獲得を目指しましょう。


サービスオフィスを利用

サービスオフィスの利用も業務負担軽減におすすめします。サービスオフィスとは、業務に必要な設備やサービスが整ったフレキシブルオフィスのひとつです。複数の会社が賃料や利用料を支払ってオフィスを共有することが一般的です。

単純にスペースを借りるだけではなく、常駐受付やドリンクサービスも受けられます。受付や設備故障の対応などの業務を担ってもらえるので、業務の一部を任せることができます。サービスオフィスの利用で、法人化にかかる初期費用が抑えられる点もメリットです。

付帯サービスは、サービスオフィスによって異なります。自分の会社に適したサービスオフィスを効率的に探すなら、複数のオフィスを比較することが大切です。簡単にサービスオフィスを検索して比較できる次のサイトをぜひ利用してみてください。

Service Office.jp


まとめ

個人事業主が法人化すると、税金負担が軽減されたり社会的信用が向上したり、事業の失敗のリスクに備えられたりといったさまざまなメリットが得られます。特に税金負担の差は大きいです。法人化すると経費にできる項目が増え、法人税の税率も所得税と比べて上限が低いためです。

一方で、事務手続きの負担増や法人化費用の発生などのデメリットもあります。法人化するかどうかはデメリットも考えて、所得や売上の金額、事業の拡大予定があるかなどタイミングを見計らうことが必要です。

本記事を参考に、メリット・デメリットを踏まえて法人化を検討しましょう。



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