会社設立時の資本準備金について「使い道は?」「資本金より多い場合はある?」など疑問も多いでしょう。本記事は資本準備金と資本余剰金・利益準備金との違い、用意するメリット・増資するデメリットのほか、資本準備金の取り崩し方法も紹介します。
会社設立にあたり、資本金とは別で計上できる資本準備金というお金があります。資本準備金は、資本金と同様に純資産として記載できる一方で、会社設立時に資金として登記されない点が特徴です。
資本準備金を用意するにあたって、「資本準備金の使い道は?」「資本準備金が資本金より多い場合はある?」など、疑問も多いでしょう。
本記事は、資本準備金の資本金や資本余剰金との違いについて解説し、用意するメリット・増資のデメリットを解説します。さらに資本準備金の取り崩し・積立のやり方や、余裕ある資金繰り方法についても紹介するので、ぜひ会社設立の参考にしてください。
はじめに、資本準備金の基礎知識を解説します。この章では資本準備金の概要と、紛らわしいお金との違いをまとめました。
資本準備金とは、簡単にいうと会社の将来のために積み立てることができるお金のことです。資本金の2分の1を超えない金額を上限として、資本金として計上せずに会社の万一の事態に備えることができます。つまり、資本準備金が資本金より多い会社はありません。
資本準備金の具体的な使い道は、赤字が発生した際の補填です。また資本金額で会社の規模が判断され、税金が高くなることから節税対策として用いられる場合もあります。
資本準備金については、会社法の第四百四十五条に次のように定められています。
(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条
株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
4 剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。
5 合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転又は株式交付に際して資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。
6 定款又は株主総会の決議による第三百六十一条第一項第三号、第四号若しくは第五号ロに掲げる事項についての定め又は報酬委員会による第四百九条第三項第三号、第四号若しくは第五号ロに定める事項についての決定に基づく株式の発行により資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。
“引用元:e-Govポータル「平成十七年法律第八十六号会社法『第四百四十五条』」”
資本金は会社の設立や運営に用いられるお金のことです。資本準備金と同様、株主などの出資者から支払われるため、一見同じお金のように思われます。
資本金と資本準備金の違いは、用意する目的・登記の有無などに現れます。それぞれの特徴を表にまとめました。
特徴 | 資本金 | 資本準備金 |
出資元 | 株主 | 株主 |
賃借対照表の記載 | 純資産 | 純資産 |
上限 | なし | 資本金の1/2 |
用意する目的 | 会社の設立や運営 | 赤字時など万一の備え |
登記簿への記載 | 記載される | 記載されない |
会社の運営に役立てられる資本金は登記簿に記載が必要です。一方で資本準備金は、資本金の2分の1を将来の備えとすることができ、バランスシートに記載してあれば登記簿への記載は必要ありません。これは、資本準備金のさまざまなメリットにもつながる特長です。
資本剰余金や利益準備金も、資本準備金と混同しやすい用語のひとつです。バランスシートで純資産として計上できるのは、資本金・資本剰余金・利益剰余金の3つです。資本準備金はこのうち資本剰余金に当てはまります。
資産 | 負債 | ||
純資産 | 資本金 | ||
資本剰余金 | 資本準備金 | ||
その他資本剰余金 | |||
利益剰余金 | 利益準備金 | ||
その他利益剰余金 |
資本剰余金は、資本取引で得た利益のうち資本金にしなかったお金のことです。万一に備えるための資本準備金とその他の剰余金に分けられます。
もうひとつの純資産として、利益剰余金があります。資本剰余金が株主などからの出資によって発生する一方、利益剰余金は損益取引で発生する資産です。株主に配当せず会社に残したお金のことをいい、利益準備金とその他利益剰余金に分けられます。
紛らわしい単語が多いですが、きちんと整理して覚えておくと安心です。
では、資本準備金を用意することによるメリットを紹介します。資本準備金には、経営リスクに備えられる以外にもさまざまなメリットがあるため、用意している会社が多いです。メリットを理解して、自分の会社に必要か判断しましょう。
まず、赤字が発生するリスクに備えられる点がメリットとして挙げられます。資本準備金を用意しておくと、万一経営が赤字になったときに、資本金を取り崩さずに補填が可能です。
資本金を取り崩して赤字を補填することもできますが、必要な手続きが多く、手間がかかります。資本金は登記されるため、取り崩しをおこなうと登記内容の変更手続きが必要です。
一方、資本準備金は、基本的に株主総会の決議があれば補填できます。会社の信用を維持し続けるなら、経営の赤字は大きな障害となります。赤字を補填できるよう準備しておくと、取引先や金融機関からの信用度低下のリスクを防ぐことにもつながるでしょう。
持っているお金を資本金と資本準備金に振り分けることで、節税につながるメリットもあります。経営のためにある程度の資産は必要ですが、税金負担を軽くするために資本準備金を計上する企業も多いです。
日本では、法人に課せられる税金は会社の規模、つまり資本金の額によって増減します。例えば法人税率は、資本金額が1億円以下であれば所得が年800万円以下の場合は15%です。原則の税率は23.2%なので、かなりの節税効果が期待できます。
また、消費税についても優遇措置があります。資本金額が1,000万円以下の場合、設立から2年間の消費税の納付が免除される仕組みです。設立時には資本準備金を用意して1,000万円以下におさえたほうが優遇が受けられます。
会社の発展や信用度の維持には、資本金の増額が必要な場面もあります。資本金が多いほど企業の経営が安定し、取引先や金融機関からの信用度の向上につながるためです。資本準備金を用意しておくと、将来資本金を増額したいときにも役立ちます。
一般株主からの出資で増資をおこなう場合もあります。しかし、出資の募集や手続きなどに手間がかかる割に、期待どおりの結果が得られる保証はありません。資本準備金を資本金に取り入れる場合、株主総会の普通決議があれば決まった額の増資ができます。
事業の発展を目指したいなら、資本準備金を用意して将来の増資に備えておくとよいでしょう。
資本準備金は登記の必要はないものの、資本金と同じ純資産として扱われます。取引先や金融機関などからは資本準備金も資産として認められるので、資産が潤沢な会社として信頼につながる可能性があります。
資本金は1円から会社設立ができますが、社会的な信用を獲得するにはある程度の資本金が必要です。とはいえ、企業の規模や安定性をアピールするために資本金を多く用意してしまうと、税制上の優遇が受けにくくなります。
そこで、資本準備金を多く用意することで、倒産しにくい会社として信用をもらいながら、節税対策もおこなうことができます。
資本準備金を用意することで、さまざまなメリットが得られます。しかし、メリットだけをみて資本準備金だけを増額すると、思わぬデメリットが発生する場合もあります。メリットとデメリットのバランスを考えて、資産を適切に割り振りましょう。
設立する会社によっては、資本金の設定に要件が設けられる場合があります。資本準備金を多く割り振りすぎてしまうと、資本金不足によって会社設立の許可(許認可)がおりないかもしれません。
許認可とは、特定の事業をおこなう場合に行政機関から得なければならない許可のことです。許認可に資本金の要件が定められている事業は、建設業・旅行業・有料職業紹介業・労働派遣業の4つです。それぞれの要件は以下の表をご覧ください。
事業の種類 | 資本金要件 |
建設業 | 500万円以上 |
旅行業 | 100万~3,000万円以上(種別により異なる) |
有料職業紹介業 | 500万円以上 |
労働派遣業 | 2,000万円以上 |
始める事業によっては、資本金以外にも許認可要件が設けられていることもあります。事前に確認しておきましょう。
資本準備金は、資本金と同じように会社の規模を表す要素のひとつです。しかし、登記情報に載っている資本金額と異なり、決算書を見なければ資本準備金の額は確認できません。そのため登記情報だけを見ると、資金のない会社としてマイナスのイメージを与える可能性があります。
例えば、会社の規模や安定性を図る基準として、資本金を確認する求職者も多いです。決算情報まで確認せず、資本金の額だけ確認して「信用できない」と思われることもあるかもしれません。
しかし、会社設立時の資本金条件が撤廃されてからは、資本金額を重視しない企業も増えてきました。会社のメリットや社会的な信用の重要性などを考えて、資本金と資本準備金の額を決定しましょう。
続いて、資本準備金の取り扱い方について、取り崩す場合と積み立てる場合に分けて解説します。実際に積み立てた資本準備金はどのように使えばよいのでしょうか?詳しくみてみましょう。
まず、資本準備金を取り崩す場合の流れを解説します。ここでは、資本金に組み入れて赤字を補填する場合や、資本金を増額する場合を想定しています。
資本準備金が計上され決算承認されているか確認
株主総会で資本組み入れについて普通決議
取り崩す資本準備金の計上を証明する書類の作成
株主リストの作成
変更登記で資本金額を変更
資本準備金の計上を証明する書類は、法務局に提出するために必要です。会社の代表者が証明したことがわかればよいので、金額と署名などが記された簡単なもので構いません。
また資本準備金を取り崩し、資本金と剰余金に分けて組み入れる場合などは、債権者保護手続きという手続きが必要になる場合もあります。
資本準備金を積み立てる場合はどのような手続きが必要でしょうか?株式会社の場合、資本準備金を積み立てる方法は、資本金からの組み入れと資本剰余金からの組み入れの2パターンです。
特に資本金から組み入れる場合は、株主総会で特別決議が必要になるため気を付けましょう。特別決議では、議決権の2分の1を有する株主の出席に加えて、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要です。また、組み入れ後は資本金に関する変更登記もおこなう必要があります。
資本剰余金からの組み入れは普通決議が取れれば問題ありません。登記手続きや債権者保護手続きなども必要ないので、比較的手間をかけずに積み立てることができるでしょう。
資本準備金は、会社経営のリスクへの備えや節税対策として効果を発揮します。しかし、資本準備金ばかりを重視すると、会社の評価などに影響する場合もあります。資本準備金がなくても余裕をもって経営できるよう、多様な資金繰りの方法を知っておくとよいでしょう。
会社の設立時の余裕はその後の余裕にもつながります。設立時の資本金は、初期費用に加えて運転費用の3ヵ月分を目安として確保するとよいでしょう。
とはいえ、自己資金だけで資本金を潤沢に用意することは容易ではありません。資本金には借入金は使用できないので、自己資金や株主からの出資でまかなう必要があります。金融機関からの借り入れはもちろん、家族や知人からの借り入れも認められないので気を付けましょう。
ただし、役員からの借り入れは資本金として計上することができます。さまざまな方法で資金を集め、余裕ある設立を目指しましょう。
ゆとりある経営をおこなうには、資金の現状を把握することが不可欠です。収支がはっきりしていれば、赤字が発生する前に行動を開始できます。
まずは自社が持っている資金を正確に把握することから始めましょう。売掛金や買掛金のサイクルなど、キャッシュフローを明確にすることが大切です。
自分だけで把握することが難しければ、経理担当のスタッフを雇ったり、専門家に管理を依頼したりするのもよいでしょう。
事業のために金融機関や株主から資金調達を受けるなら、将来を見越して計画を立て、早めに行動することをおすすめします。
資金調達は会社の信用がなければできません。経営が危なくなってからでは、金融機関や株主からの信用が得られず、融資も受けにくくなってしまいます。資金調達をおこなうには計画性が重要です。
また、金融機関からの融資には保証料や手数料、毎月の返済などのコストもかかります。融資を受けるなら、ある程度余裕があるうちに始めましょう。
資金調達の方法について詳しく知りたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。
「起業におすすめの資金調達方法とは?自己資金なしで起業する方法も」
資金が潤沢にあっても、経営コストに無駄があってはゆとりある経営には至りません。経営コスト削減を意識して、収支のバランスを整えましょう。
例えば次のようなコスト削減方法があります。
支出を把握して無駄な支出をあぶり出す
仕入れと在庫状況は常にチェックする
会社の信用に関わる部分の経費は削らない
特にオフィスの維持費は大きな費用で、ひと月に数十万円の支出になる場合もあります。オフィスのランニングコストの対策として、フレキシブルオフィスの利用もおすすめです。特にサービスオフィスは、受付などの人件費や設備の導入費用も削減できます。
サービスオフィスの比較や検索はこちらのサイトをご覧ください。
記事の最後に、資本準備金に関するよくある疑問に答えました。わからないことがあればその都度解決し、不備を防いでスムーズな会社設立を目指しましょう。
資本金として計上しないお金は、資本準備金として計上しなければならないと会社法に定められています。しかし、資本準備金は会社設立時に必ず用意しなければならないお金ではありません。資本準備金が0円でも会社は設立できます。
資本金の2分の1を超えないという上限は定められていますが、下限は設けられていません。法律上は、資本金も1円以上あれば会社設立ができます。上限が2分の1とされている以上、仮に資本金が1円の場合、資本準備金は用意できないことになります。
資本準備金はあくまで経営リスクに備えるお金です。会社の設立や運営に不可欠なお金ではないため、用意できないからといって会社設立に悲観的になる必要はありません。ただし資本準備金のメリットを得たいなら、資金繰りについて今一度考えてみるとよいでしょう。
資本準備金は、会社設立にあたって必ず用意しなければならないお金ではありません。ただし配当時には、剰余金が一定以上ないと配当が認められないルールがあります。
具体的には、資本準備金と利益準備金の合計(準備金)が資本金の4分の1に達しなければなりません。これを満たさない場合は、資本準備金または利益準備金の積み立てが必要です。
積み立てる金額は、資本金の4分の1から準備金を差し引いた額か、剰余金の10分の1のいずれか小さい額です。
資本準備金など会社設立に関して悩むことがあれば、専門家への相談もおすすめです。
税金に関する内容は税理士、登記の疑問は司法書士、許認可に関わる内容は行政書士など、悩みにあった相談先を選びましょう。また、会社設立をサポートする団体やサービスを利用することもできます。
専門家への相談は料金がかかりますが、無料相談をおこなっている場合もあります。まずは無料相談を利用して解決を図りましょう。
資本準備金は、会社の万一の赤字リスクに備えられるお金です。資本金と同じ純資産として取り扱われますが、登記の必要がないため増減にともなう手続きも少なくて済みます。
資本準備金は、資本金に手を付けずに赤字部分を補填できたり、資本金を減らすことで節税対策ができたりする点がメリットです。また、資本準備金が潤沢にあることで会社の信用度アップにつながります。
このように、資本準備金を用意することにはさまざまなメリットがあります。資本金とのバランスを考えながら会社に必要な額を用意して、将来のリスクに備えましょう。
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