定款の作成においては、事業の方向性を示す事業目的を正しく記載する必要があります。初めての場合は、わからないことも多いでしょう。この記事では、どのように事業目的を書けばよいのかや変更の仕方などを詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
事業を立ち上げる際には定款の作成が必要ですが、初めて事業を立ち上げる人にはわからないことが多いです。中でも事業の方向性を示す事業目的の書き方には、ルールなどがあるのでしょうか。
なお事業目的はあとで変更することもできますが、基本的には作成時に今後の展開も踏まえた内容を記載したほうが面倒が少なくすみます。
この記事では、定款の事業目的の書き方と変更の仕方について、具体例を紹介しながら解説するので、ぜひ参考にしてください。
定款とは会社において定められているルールであり、作成したあとに法務局から認証を受ける必要があります。以降でより詳しく見ていきましょう。
定款とは会社設立時に作成する会社のルールをまとめたものです。会社法と呼ばれる法律に従って作成され、これを根拠として事業が進められます。その性質上、会社における憲法のようなものと表現する人もいます。
定款に記載される必要がある内容は次の3点です。
絶対的記載事項:必ず記載しなくてはならない事項
相対的記載事項:問題が発生しないように記載する事項
任意的記載事項:企業として定めておきたい独自の記載事項
それぞれの事項に関して詳しく解説します。
絶対的記載事項は、会社法により定款に必ず記載しなくてはならない事項のことです。具体的には以下の5つの情報を記載する必要があります。
商号:会社の名前
目的:事業内容
本店所在地:会社の住所
設立に際して出資される財産の価額、またはその最低額:資本金の金額
発起人の氏名、または名称及び住所:会社を起業する人の名前と住所。発起人が複数いる場合は発起人全員が対象であり、押印も必要
これらについては記載が義務付けられているため、定款を作成する際は必ず盛り込むようにしましょう。
相対的記載事項は、起業の際にあいまいにしていると問題が発生する、現物出資などの金銭関係について記載する事項です。必須事項ではありませんが、記載がなされていないと法的な効力が発揮されないため、基本的には定款に記載すべき情報です。内容については以下の表のものを定めます。
現物出資 | 財産引き受け | 設立費用 | 発起人の報酬や特別利益 |
金銭以外の出資内容 | 会社設立の成功を条件に会社が受け取る、あるいは買う予定の財産 | 会社設立後に会社が負担する例外的な設立費用 | 設立が成功した際の発起人への報酬 |
現物出資と財産引き受けは、事業に必要な不動産やPC機材などを現物の出資として受け取るものです。例えば、会社を起業したい人が使っていない不動産物件を持っている状況で、これを事務所として利用する場合には、この不動産の価値が現物出資となります。一方で、起業後に事業所として使う予定の物件を、不動産会社から購入する予定があるケースは、財産引き受けにあたります。
この2つについては、他の出資者が現金で出資した金額と比較して、釣りあいのとれた出資状況になっているのか確認するための事項です。
設立費用は登記や認証の際に必要になる費用を指します。なお、これらを専門家に依頼した場合は、その費用も加算されます。設立費用は会社を立ちあげる際に、適正な金額が支払われたのか確認するための事項です。
発起人の報酬や特別利益は、起業の手続きを行った発起人に対して支払われる功労費のことで、万が一過大な額が支払われていないかを確認するための事項です。
相対的記載事項では、以上の内容をしっかりと記載して事業が健全に行われるように努め、問題があるようなら訂正できるようにしています。なお、実際に作成する際は法的な効力を発揮させるために、判断が可能な弁護士などの専門家に確認を依頼してください。
任意的記載事項は、特に定款に記載する必要のない事項です。会社として独自性を出したルールを設定したい場合に記載することが多く、取締役の人数などを決めておきたい場合などに書き込まれます。
法律に抵触しないルールであれば記載により効力を発揮するので、決めておきたいものがあれば任意的記載事項に書き込んでください。
定款の作成が完了したら、公証役場に提出して認証を受ける必要があります。これは作成した定款が、法律的に正しいのかを公証人に確認してもらうためです。認証を受けることで公的に問題ないと示され、会社の憲法として機能します。
認証については、本店所在地を管轄とする公証役場に提出しましょう。手続きは、紙媒体と電子媒体の2通りで行えますが、紙媒体は費用がかかるので、電子媒体で提出することをおすすめします。
定款に記載する事業目的とは、絶対的記載事項のひとつです。これを見れば適法性・営利性・明確性を確認できるため、記載する際に伝わるような書き方をしなくてはなりません。
事業目的は、設立した会社でどんな事業を行うのかを記載した絶対的記載事項のひとつです。これを確認するだけで、この会社がどのような事業を行う目的で設立されたのかが一目でわかるため、記載が義務付けられています。
ただし、その際にはいくつかポイントがあり、それを押さえたうえで記入する必要があります。
事業目的が確認できれば、それが適法性・営利性・明確性を持っているのか判断する必要があります。会社法人には違法な事業をしていない適法性、利益を上げることが目的となっている営利性、誰が見てもわかるような明確性が社会的に求められるからです。
定款の事業目的を具体的にどう記載していけばよいのでしょうか。ここでは、書き方のポイントとして以下の4つをお伝えします。
誰にでも分かるように書く
事業拡大後のことも視野に入れて書く
項目のひとつ目にはメインとなる事業を書く
事業が許認可必須のものか確認してから書く
以上を理解したうえで定款の事業目的を記載してください。
事業目的は、誰が読んでもわかるように記載するのがポイントです。定款は単なる会社のルールというだけでなく、登記簿に記載されて第三者の目に触れるものです。例えば、金融機関の融資の審査を行う際に提出したり、取引先の選定の際にどんな企業なのか、確認したりするために利用されることがあります。
この際に、わかりにくい内容だと融資の審査に落ちたり、信頼性が低くなったりしてしまいます。せっかくの機会を逃さないためにも、どんな会社なのか一目でわかるようにしましょう。
目的については将来の事業展開を検討しながら、必要な事業はすべて記載するようにしましょう。なお、定款に記載されていない事業というのは基本的には行えません。したがって、事業目的は事業拡大を視野に入れて、複数記載することが望ましいです。
実際、大手企業を検索してみると、複数の事業目的が定款に並べられていることがわかります。例えば、ソニー株式会社では電子・電気機械器具の製造、販売だけでなく金融業や出版業も記載されています。
ただし、あまりにも書きすぎるとわかりづらさが増してしまうため、多くとも10件ほどに絞っておきましょう。ちなみに事業目的の最後に「附帯関連する一切の事業」と記載することもおすすめです。こちらのテクニックは以下で解説します。
最後に「附帯関連する一切の事業」と記載すると、幅広くビジネスしていることを読者に伝えることが可能です。書き込まれた事業目的に関する実務を、複数行っているという意味になり、ずらずら記載するよりもスッキリと受け取らせることができます。
したがって、中核となる事業について記載できたら、あとはこの文言を入れればよいです。
定款を目にした人に、企業イメージをわかりやすく受け取ってもらうために、最初の目的はメインの事業を書いてください。そうすれば読み手は、この企業は○○のビジネスをやっているんだと一目で伝わります。
一方、さほどメインでない事業から書いてしまうと、いざビジネスの話をしようとしたときに、齟齬が生まれる原因になるため注意しましょう。
事業の中には、許認可がなくては展開できないビジネスもあるので、事前にあてはまるかどうか確認したうえで記載する必要があります。どんな優れたアイデアや手腕があったとしても、許認可がなければ業務ができません。
また、許認可を取得する際には、定款にその旨が記載されていなければ、対応する事業を展開しないとみなされて許可がおりなくなったり、定款自体を変更せざるをえなくなったりします。
なお、定款の変更は発起人が独断で行うことはできません。株主総会にて変更を決定したうえで定款を修正し、登記することで完了します。手続きにはお金も時間もかかるので、必ず確認してから記載しましょう。許認可が必要な事業については以下で説明します。
以下の事業を起業する場合には許認可が必要です。
建設業
不動産業
古物売買業
旅行業
労働者の派遣事業
運送業
介護事業
警備業
自動車運転代行業
飲食店
酒類の販売等
貸金業
万が一これらにあてはまっている場合は、どうすれば許認可がとれるのか調べてみましょう。都道府県知事の許可が必要であったり、国家資格などを持っていないとダメな場合もあります。
ここでは、以下のカテゴリーに分類して、事業目的の具体例を解説します。
金融・保険
建設業
飲食店
IT・インターネット関連
サービス業(生活や美容関連)
不動産業
ただし以下の内容は、あくまでも多数の具体例の一例をあげているにすぎません。できれば同業他社の事業目的を参考にするとよいです。
金融・保険業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
金融業
ファクタリング業
住宅ローン事務代行
少額短期保険代理業
生命保険の募集に関する業務
以上のように、一般的に業務を理解できる内容で記載されています。なお、金融・保険業でより幅広く事業を行っていることをアピールしたい場合には、コンサルティングすることを事業目的に含ませましょう。
建設業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
建設業
建設工事の請負
塗装工事業
左官工事業
水道施設工事業
電気通信工事業
建設業での事業目的は、ライフラインに直接繋がるような事業が多いのが特徴で、一般の人からみてもわかりやすい記載になっています。
飲食店業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
食料品の販売
飲食店及び喫茶店の経営
コンビニエンスストアの経営
健康補助食品及び健康飲料の販売
仕出し弁当の製造
販売
飲食店業は難しいニュアンスが必要ないので、上記のように飲食店に関わる内容を記載すれば伝わります。ただし、より事業内容を明確にしたければ、「○○食品を販売している」など具体性を持たせたほうがよいです。
IT・インターネット関連業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
コンピュータのソフトウェア及びハードウェアの企画・研究・開発・設計・製造・販売・保守・リース
通信販売業務
インターネットによる広告業務及び番組配信
EC(電子商取引)サイト
その他各種ウェブサイトの企画、制作、販売、配信、運営及び管理
以上のように、IT・インターネット関連業では記載されている内容が複雑です。事業内容がかなり幅広いという特徴が業界にあるため、載せる文言にもそれが反映されているからです。
サービス業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
エステティックサロンの経営
クリーニング業及びリネンサプライ業
食品及び日用雑貨等の宅配業
美容院及び理容院など理美容サービス業に関する店舗の経営
サービス業では事業がさまざまあり、それが内容に反映されていることがわかります。ただし、どの事業目的も生活や美容に関するものになっている点が共通しています。
不動産業の事業目的は、以下の内容を記載している例が多いです。
不動産の売買・賃貸・仲介・管理
宅地建物取引業
不動産に関するコンサルティング業務
ビルメンテナンス業
上記のとおり、不動産業では事業目的が明確に記載されています。不動産の扱いに関しては免許申請の必要があるため、しっかりとした目的が記載されていなくてはならないからです。したがって、扱う予定の業務についてはすべて事業目的に載せるようにしましょう。
定款の事業目的は、作成時におおよそ予定のある事業について記載する必要があります。しかし状況によっては、事業内容を変更する必要が生じるかもしれません。そのような場合に定款の変更は可能なのでしょうか。
ここでは、定款に記載済みの事業目的の変更方法について解説します。
定款に記載済みの事業目的の変更は可能ですが、株主総会の決議がなされたうえで初めて手続きができます。一般的な株式会社では、定款の変更には株主総会による決議が必要であり、会社で勝手に変更を加えることは許されていません。そのため、以下のプロセスに沿って行う必要があります。
事業目的の変更手順
株主総会を開催(議決権を持つ過半数の出席が必要)
特別決議により2/3以上の賛成を得る、議事録を作成する
付随する手続きを行う
以上のように株主総会での議決を得てから、手続きを行いましょう。なお、手続きについては以下で解説する目的変更登記が必要です。
定款の変更にあたっては、目的変更登記の手続きが必要です。期限が定められているので迅速に行動しましょう。具体的には定款を変更した日から2週間以内に変更登記申請をする必要があり、これを過ぎると罰則として過料が課されてしまいます。
なお、目的変更登記の際に新しい事業目的を記載する場合は、変更しないものもあわせて載せてください。目的変更登記で記入した内容はそのまま上書きされる仕様です。
例えば3つある目的の1つを変更する場合に、変更したものだけを載せると、それが唯一の事業目的になってしまいます。手続きの際にはこの点に注意しながら進めましょう。
定款とは会社の憲法のような存在ですが、効力を発揮するためには公証役場で認証を得る必要があります。また、定款には事業目的という項目がありますが、これは絶対的記載事項と呼ばれ、適法性・営利性・明確性を持つ内容の記載が求められます。
具体的には誰にでも分かるように書き、事業拡大後のことも視野に入れた内容を盛り込むことなどが必要です。金融・保険業や建設業など、各業種で事業目的の記載内容が異なるので、今回紹介した例を参考にしてください。
なお、定款に記載済みの事業目的の変更は可能ですが、変更には株主総会の決議や目的変更登記の手続きが必要です。これらを理解したうえで事業計画をしっかり立て、定款に記載する事業目的を考えてください。そうすれば問題なく事業を始められるでしょう。
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