資金に不安があり、起業の第一歩を躊躇していませんか。利益が見込めるアイデアも時間が経つと通用しなくなります。この記事では起業に必要な資金について、基本的なことから目安や調達方法まで紹介します。ぜひ参考にして資金の不安を解消してください。
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本記事の監修者 Seven Rich会計事務所/日野 陽一(ひの よういち) 2011年に青色申告会に入社。2015年に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。金融機関の法定監査などに携わる。2018年からはSeven Rich会計事務所に勤務し、ベンチャーやスタートアップ企業を中心に資金調達やIPOの支援、税務申告のサポート等を行っている。 |
起業したいけれど資金がいくら必要かわからず、預貯金だけでは足りないのではと思っていませんか。どれだけ優れたビジネスモデルのアイデアを持っていても、実現できなければ宝の持ち腐れです。いつまでも行動に移せていないとライバルに先を越されるかもしれません。
そこでこの記事では、初めて起業する人向けに、必要になる資金の目安や調達方法、費用の節約方法を紹介していきます。具体的な目安や調達方法がわかれば、現状でも起業は可能なケースもあります。ぜひ参考にして、理想を実現する第一歩を踏み出しましょう。
起業に必要な資金の種類
どのような形で起業するとしても、設備資金と運転資金という2種類の資金が必要になります。どちらが不足しても、事業がうまくいかない可能性は高いです。準備の段階でつまずかないためにも、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
設備資金とは、起業のために必要なものを購入したり借り入れたりするために使うお金です。事務所をかまえて事業を行う場合は、次のものが設備資金に当てはまります。
賃貸の事務所への入居費用(敷金・礼金・仲介手数料など)
内装の改修・改装費用
パソコンや事務用品の購入費用
固定電話やインターネット回線の設置費用
広告のための自社ホームページの作成費用
購入や作成したものは資産となりますが、まとまった資金が必要です。飲食店の起業であれば、業務用の冷蔵庫や厨房機器、各種食器などを揃えなければならず高額になってしまうでしょう。
運転資金は、起業した事業を継続するために必要なお金です。事務所をかまえた事業では、次のようなものが運転資金に該当します。
事務所の家賃
事務所の光熱費・通信費
従業員の人件費
商品の仕入れ費用
消耗品の購入費用
事業の広告費
利益にかかる税金
従業員の社会保険料
その都度支払いを求められ、大きな利益が望めない起業当初は負担になりやすいです。数ヶ月後に十分な入金がある予定でも、現状で支払いが滞るようなら事業の継続は難しいでしょう。
【起業の方法別】必要な資金の目安
必要な資金は起業の方法によって大きく変わります。日本政策金融公庫総合研究所が、毎年公表している新規開業実態調査によると、直近の平均は1,000万円前後です。しかし詳細を見ると2021年度の調査では、4割以上が500万円未満で起業しています。
そこで具体的な起業を想定し、次の3つのパターンで必要な資金の目安を見ていきましょう。
自営業やフリーランスで起業
個人事業主として起業
法人の企業を設立
自営業やフリーランスとして起業する場合には、設備資金は0円でも事業は成り立ちます。プログラマーやWebライターであれば、オンライン上のやりとりだけでも事業が完結できます。自宅が作業スペースとなり、手持ちのパソコンと通信環境だけでも問題ありません。
運転資金は当面の生活費として、家賃や食費、通信費などが必要です。地方で一人暮らしをしながら起業するなら、20万~30万円確保しておくと3ヶ月程度はしのげるでしょう。副業としての起業であれば、本業で生活費はまかなえているため、預貯金がない状態でもすぐに始められます。
個人事業主はフリーランスと違い、税務署への開業届が必要です。自宅だけで完結するものでも、事業とする場合は届出をしてください。書類の作成に収入印紙などは不要で、0円ですぐに提出できます。
個人事業主として飲食店やスクールを起業する場合は、設備資金として入居費用や改装などで数百万円かかります。さらに運転資金として、当面の生活費や店舗の家賃・人件費などで数百万円必要です。1人で始めても家賃の高いところでは、1,000万円程度は用意していたほうがよいでしょう。
不動産関連の起業の中には、設備資金が0円で始められるものもあります。例えば駐車場経営では、管理会社による一括借上で運営すると、土地の整備代などは全額負担してもらえ、運営費などを引いた利益を受け取ることが可能です。
法人の企業は個人事業主と違い、法律上の権利や義務の主体が法人格にあります。そのため、事業が上手くいかなくても借金の返済は個人にまで及びません。
法人として起業する場合には、基本的な設備資金や運転資金は、フリーランスや個人事業主のときと変わりません。どのような事業内容でも法人としての起業は可能です。運転資金は当面の生活費だけでも確保しておきましょう。
法人となるためには届出が必要なので、株式会社を設立するなら初回の設備資金として次のものを用意してください。
定款の収入印紙:4万円
定款認証の手数料:3万~5万円(資本金で変わる)
定款謄本の手数料:約2,000円
登録免許税:15万円
手続きを専門家に依頼した報酬:5万~15万円
起業のための資金を調達する方法
起業したい事業によっては資金が1,000万円以上必要で、自己資金だけで全額支払うのは難しいでしょう。生活費を切り詰めて貯蓄しても、数十年かかるようなら起業自体を諦めてしまいます。
そこで重要になるのが、起業のための資金調達です。ここでは次の4つの調達方法について、詳しく紹介していきます。
融資は起業に必要な資金を、一定の金利で金融機関などから調達する方法です。設備資金や運転資金で、それぞれ数年~十数年の返済期間を設定し、事業の利益から返済していきます。
起業時は実績がないため、将来性がある事業計画書を作成し、金融機関の審査を通らなければなりません。融資を受ける先としては銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などがあります。
融資を受けて起業するメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット | |
金融機関からの融資 |
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借入は、事業以外の用途にも利用できる資金の調達方法です。金融機関であればフリーローンで申し込み、個人の信用で借入が可能かどうかが決まります。親族や友人からの借入であれば、口頭の約束だけでも融通してもらえるかもしれません。
借入で起業をするメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット | |
金融機関からの借入 |
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親族・友人からの借入 |
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出資は個人や企業、投資家などから資金提供を受けて起業する方法です。融資と違い、現金での返済は不要ですが、出資額に見合うだけのメリットを提供しなければなりません。
例えば株式を発行して将来の利益につなげたり、クラウドファンディングで出資を募り、ものやサービスを提供したりします。
出資で資金を調達するメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット | |
個人・企業・投資家からの出資 |
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投資家や企業に個人的な人脈があれば、起業の資金調達は進めやすいでしょう。
補助金や助成金は、国や自治体に申請することで受け取れる資金です。補助金は経済産業省が主体で、産業の育成などを目的としており、調達できる資金は1億円を超えることもあります。助成金は厚生労働省が主体で、労働環境の改善などを目的としており、調達できる資金は10万円単位が多いです。
創業支援等事業者補助金では、対象となる経費に対して最大1,000万円を補助してもらえます。また中途採用等支援助成金では、雇用創出で最大200万円を受け取れます。
補助金や助成金を利用して起業するメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット | |
補助金・助成金で起業 |
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起業の資金調達で失敗しないポイント
将来性があるアイデアを持っていても、資金調達に失敗して起業できなければ意味がありません。調達先に資金を出してもよいと思ってもらえるように、次の3つのポイントを押さえておきましょう。
専門家に資金調達方法の相談
現実的な事業計画書を作成
事業の運転に余裕のある額を調達
融資や出資など、さまざまな資金の調達方法がありますが、初めて起業する人にとっては、どれが最適なのかを判断するのは困難です。自身にあった方法を検討するためにも、特徴を把握して次のところに相談に行きましょう。
相談先 | 相談先の特徴 |
日本政策金融公庫の各支店 |
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日本政策金融公庫の認定支援機関 |
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民間の金融機関 |
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地域の商工会議所・商工会 |
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税理士 |
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事業計画書は、融資や出資で資金調達するときに必要になる書類です。起業して何をしていきたいのかや、利益が見込めるビジネスモデルなのかなどを相手に伝えます。説得力のない内容では、融資や出資したいとは思ってもらえません。
現実的な事業計画書を作成するために、次の8つを言語化してください。
いつ起業したいのか
どこで起業したいのか
誰がどれだけの規模で運営する予定か
事業のメインターゲットの年代や性別は
事業で何を提供するか
なぜ起業して事業を行うのか
どのようにサービスを提供するか
起業に資金はいくら必要か
最後まで読んでもらうためには見やすさを重視し、フォーマットを統一して図やイラストを挿入しましょう。また納得してもらえるように根拠は数字で示し、競合の分析もしておくと説得力が増します。適切な相談先でも見てもらい、不足している点はブラッシュアップしましょう。
必要最低限の資金しか調達していないと、事業を継続するのは難しくなります。問題になるのは運転資金で、事業によっては売上が契約から2~3ヶ月後に入ることも珍しくありません。売上が入るまでの間も運転資金は必要なため、入金のタイミングによっては黒字でも倒産してしまいます。
起業のために資金を調達するなら、返済に無理のない範囲で運転資金に余裕を持っておきましょう。一度事業が軌道に乗っていても、新型コロナ感染症の流行のような想定外の事態で経営が悪化する可能性があります。運転資金に余裕があれば、事態が沈静化するまで耐えられたり、新規事業の模索もできたりするでしょう。
起業資金の不足分は調達可能ですが、どの方法も確実に調達できるとはいえません。現実的な事業計画書でも、必要な額が高額だと調達のハードルは高くなります。そこでスムーズに起業するために、必要な資金を節約する方法を4つ紹介していきます。
資金がいらない方法で起業
無料の事務系サービスで業務の効率化
必要な設備は新品にこだわらない
事務所はフレキシブルオフィスを利用
節約によって、自己資金だけの起業も視野に入ってきます。
現在、資金0円で起業する方法は世の中にいくつもあります。顧客とのマッチングサービスもあり、パソコンとインターネットへの通信環境さえあれば、次のような選択肢があります。
ネットショップの運営
コンサルタント
代行ビジネス(家事、買い物など)
ライター
動画・ホームページ作成
情報商材の販売
アフィリエイト
これらはいずれも1人ですぐに始められ、設備資金は基本的に不要です。収入に不安がある人は隙間時間で起業して、軌道に乗ってから現在の仕事を辞めるのも手です。
1人で起業すると、事務仕事もこなす必要があります。営業活動や商品開発に力を入れたくても、事務仕事に時間を取られていては売上につながりません。しかし人を雇ってしまうと必要な運営資金が増えてしまいます。
そこでおすすめなのが無料の事務系サービスを利用することです。会計や請求書の管理、メールでは送りにくいデータの共有などは、クラウド上で利用できるサービスが複数展開されています。基本的な機能であれば無料で利用できるため、業務を効率化するために上手に活用してください。
起業で実店舗が必要な場合には、設備資金は高額になりやすいです。シンプルな机でも、新品を購入すると数万円することもあります。人を複数人雇う小さな事務所でも、各種什器をそろえると100万円単位の出費になるでしょう。
そこで設備資金を節約するためには、新品にこだわるのをやめて中古の利用を検討してください。小さな傷があっても十分機能するのであれば、半額程度で販売されているものもあります。
飲食店などでは居抜き店舗の利用で、設備費用の節約が期待できます。インターネット上の無償譲渡サイトを活用すると、必要な備品をほぼ無料でそろえられる可能性もあるでしょう。
フレキシブルオフィスとは、個人でも短期利用が可能なワークスペースで、シェアオフィスやレンタルオフィス、サービスオフィスなどがあります。机やいす、通信環境はそろっていて、ゼロから用意する必要はありません。敷金や礼金などの入居費用も不要で、契約期間に応じた賃料を支払うだけです。
サービスオフィスの場合は、文章や資料の整理・作成、電話対応のサービスなども提供されています。質の高いビジネスサポートを必要な分だけ利用でき、運転資金の節約も可能です。サービス内容は運営によって変わるため、複数を比較して選ぶとよいでしょう。
また、シェアオフィスなどのフレキシブルオフィスを探したい場合には、比較サイトを活用していくとよいでしょう。上手に利用することで、気になるオフィスの設備やオプションなどを、他と比較しながら検討することができます。一例として比較サイトの「サービスオフィス.jp」を紹介します。
こちらでは、自身がオフィスに求める条件からスクリーニングを行い、そこから該当する物件を賃料と面積で比較することが可能です。簡単に小規模オフィスを探せるので、ぜひ試してみましょう。
【Q&A】起業に必要な資金
最後に起業の資金について、気になる疑問を紹介します。
自己資金なしでも起業は可能か
融資の返済が滞るとどうなるか
資金の調達ができて起業しても、すぐに廃業してしまえば負債だけが残ってしまいます。気になることはできるだけなくして起業に挑みましょう。
起業にはまとまった資金が必要ですが、融資を受ければ自己資金なしでも始められると思っていると上手くいきません。融資の制度によっては、一定割合の自己資金の出資が条件になっているものがあります。そのような条件がなくても、初めての起業では実効性を疑われ、交渉のテーブルについてもらえないかもしれません。
どうしても自己資金なしで起業したいなら、ネットショップの運営などを検討しましょう。どの起業でも運営資金として生活費の確保は必要ですが、設備資金を節約できれば起業できる可能性は高まります。
融資を受けて起業すると、契約内容に従い定期的に返済が必要です。事業が軌道にのらなかったり、一時的な運転資金不足だったりして返済が滞ると、金融機関から督促があります。
この段階であれば交渉の余地があり、返済のリスケジューリングや追加の融資、借り換えなどで乗り切ることは可能です。しかし交渉がまとまらずに滞納が続いていると、不良債権扱いになり最終通告後には資産の差し押さえまでされます。こうなると事業の立て直しもままならず、倒産してしまいます。
もし起業して融資を受けるなら、手持ちの資金を正確に把握し、滞納する前に融資を受けた先に相談してください。
起業するためには、設備資金と運転資金の2種類が必要です。事業の内容にもよりますが設備資金は0円から始められ、運転資金は生活費程度に抑えられます。まとまった資金が必要な場合は、融資や出資、借入などで調達可能です。調達先を納得させられるように、専門家に相談したり現実的な事業計画書を作成したりしてください。
飲食店などの実店舗を必要とする起業では、中古や居抜きの利用を検討し、事務所が必要な場合は、フレキシブルオフィスを活用して節約に努めましょう。融資の滞納の対処まで把握しておけば、資金の不安なく起業の手続きに入れます。
本記事の監修者 Seven Rich会計事務所/日野 陽一(ひの よういち) 2011年に青色申告会に入社。2015年に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。金融機関の法定監査などに携わる。2018年からはSeven Rich会計事務所に勤務し、ベンチャーやスタートアップ企業を中心に資金調達やIPOの支援、税務申告のサポート等を行っている。 |
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