個人事業主から法人化すると、さまざまなメリットを得られる一方でデメリットも少なくありません。この記事では、個人事業主が法人化するメリット・デメリットやおすすめのタイミング、法人化する流れ、業務をスムーズに進めるポイントを解説します。
個人事業主から法人化することを検討していませんか?法人化によって仕事をしやすい環境を整えられるだけではなく、税金や経費、社会保険などにおいてもプラスの効果があります。
一方、法人化することで出費や各種手続きの手間が増えるデメリットもあるため、個人事業主から法人化することに躊躇してしまう人もいるでしょう。
そこでこの記事では、個人事業主から法人化したい人に向けて、メリット・デメリットやおすすめのタイミングを解説します。
ほかにも、個人事業主が法人化する流れや業務をスムーズに進めるポイントも取り上げるので、法人化すべきか迷っている個人事業主はぜひ参考にしてください。
法人化の意味は、個人事業主が法人登記をして新しく会社を設立することです。法人化は「法人成り」と呼ばれることもあります。
新しい会社には個人事業主の資産や負債が引き継がれ、事業を継続します。また、法人化によって法人専用の税が課されたり、所得から役員報酬になるケースがあることも特徴です。
次の章では、個人事業主が法人化するメリットを詳しく解説するので、本格的に法人化を検討している方はぜひ参考にしてください。
個人事業主が法人化すると、以下のようなメリットを得られます。
金融機関や取引先からの信用度が向上
課せられる税率の上限を抑制
経費扱いにできる範囲が拡大
社会保険への加入で老後に余裕
赤字の繰越期間が延長
事業の責任の範囲を限定化
決算期の設定が自由
ここでは、各メリットの詳細を見ていきましょう。
個人事業主が法人化すると、金融機関や取引先からの信用度が上がります。個人事業主は本人の信用がすべてとなりますが、法人化して経営体制を整えれば、取引先から安心して取引してもらえるようになり、事業を継続しやすくなります。
また、信用度が高いからこそ、個人事業主よりも金融機関から融資を受けやすいでしょう。
法人化によって税負担を軽くできる可能性もあります。個人事業主には所得税、法人には法人税が課されますが、所得税は累進課税となっているため、所得が多いほど納付する税金も上がります。以下の表は、所得税の税率です。
所得 | 所得税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円超え~330万円以下 | 10% |
330万円超え~695万円以下 | 20% |
695万円超え~900万円以下 | 23% |
900万円超え~1,800万円以下 | 33% |
1,800万円超え~4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超え | 45% |
所得税では税率が40%超えもありえますが、法人税は累進課税ではなく、所得が多い場合でも以下のように税負担は重くありません。
所得 | 法人税率 |
800万円以下 | 15% |
800万円超え | 23.2% |
法人税ならば上限は23.2%なので、所得が多い個人事業主は法人化するのがおすすめです。
法人化することで、経費として扱える範囲が広がるメリットもあります。法人になると、個人事業主では経費にできなかった給与や賞与、退職金なども経費扱いにできます。
個人事業主の場合は事業所得となり、収入を経費として計上できませんが、法人は自分に支払う給与も経費として計上することが可能です。
ほかにも、生命保険を全額経費にできる可能性があります。大幅に節税したい場合も、個人事業主から法人化することを検討しましょう。
法人化すれば社会保険への加入が義務づけられます。社会保険に加入した場合、国民健康保険より支払いは増えますが、その分老後の受取額は増えるメリットがあります。
また、社会保険への加入は人材確保の要因ともなってくれるため、事業を拡大させたい場合も法人化がおすすめです。
法人化すると赤字を繰り越せる期間が長くなります。青色申告者の個人事業主は3年までですが、法人は最長で10年赤字を繰り越せます。
赤字の繰り越しによって将来の黒字と相殺できるため、将来の法人税負担を減らせるでしょう。
法人化によって、会社としての負債を個人で負わなくてよくなるメリットもあります。個人事業主は事業に関する責任をすべて自身で負う必要がありますが、法人の場合、出資額の範囲で責任を負う有限責任です。
ただし、法人の種類によっては有限責任ではありません。合資会社は1名以上、合名会社は社員全員がすべての責任を負うことになります。株式会社や合同会社の場合は、有限責任です。
決算期を自由に決められるのも法人化のメリットです。個人事業主だと毎年12月31日が締め日と定められていますが、法人にはあらかじめ決められた決算期はありません。
3月や9月、12月を決算月にする法人は多いですが、繁忙期を避けるなど都合のよいタイミングに設定できます。
個人事業主から法人化するメリットはさまざまありますが、一方で以下のようなデメリットもあります。
赤字経営でも税金の負担
法人化の手続きに費用
事務作業の煩雑化
法人化して後悔しないように、デメリットも把握しておきましょう。
個人事業主から法人化すると、赤字のときでも法人住民税の納税が必要です。個人事業主は赤字になると、所得税の支払いがなく住民税も非課税ですが、法人の場合は一定金額を納付する決まりがあります。
また、法人住民税には以下の2つの種類があります。
資本金などに応じて定額を支払う「均等割」
法人税に応じて支払う「法人税」
税率は自治体で異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
個人事業主から法人化すると、手続きに費用がかかるのもデメリットといえます。株式会社を設立する場合、最低でも法人登記手続きに15万円は必要です。資本金が高いほど、法人登記手続きに必要な費用は増えます。
安定した経営を続けるためには、資本金も運転資金の3ヵ月程度は用意しておいたほうがよいでしょう。
法人化すると、個人事業主のときより会計が複雑になり事務の手続きも増えます。法人税申告書の作成や社会保険などの手続きを個人で対応するのは難しいです。
また、個人事業主のときに自身で経理・事務処理していた人は、税理士への委託や別途事務スタッフを雇う必要性も出てきます。各種手続きや処理にかかるコストも考えてから、法人化すべきなのか検討しましょう。
法人化するタイミングの目安には、以下の3つが挙げられます。
税率の差が大きくなる所得800万円超え
インボイス対策も狙う売上1000万円超え
事業規模の拡大を計画中
いずれかに該当する人は、本格的に個人事業主から法人化することを検討してください。
個人事業主で所得が800万円を超えそうなときは、法人化のタイミングといえます。所得が高いほど個人事業主の納める税金は高くなりますが、法人には累進課税が適用されません。
所得800万円を例に挙げると、個人事業主の税率は23%、法人税の税率は15%なので、法人のほうが税金の負担を抑えられます。所得800万円を超えそうな場合は、事前に法人化を検討しましょう。
売上が1,000万円を超えるときも法人化するおすすめのタイミングです。売上1,000万円を超えると課税事業者となり、超えた年の2年後から消費税の納税義務が生まれます。
法人化のタイミングを調整すると、最大2年間は消費税を免税できるため、節税したい場合は、売上1,000万円超えの翌年に法人化することを検討してください。
事業を大きくしたいときも、法人化するには最適なタイミングといえます。法人化によって資金調達しやすくなり、法人以外とは取引しなかった会社とも取引できるようになります。
法人は個人事業主よりも、社会的信用度が高まり事業規模を拡大しやすくなるので、事業成長を計画している人は法人化を検討しましょう。
法人化するための一般的な流れは以下のとおりです。
会社としての基本事項・定款の決定
法人化・個人事業廃業で書類提出
個人事業の資産の引き継ぎ
個人事業のときの収支を確定申告
スムーズに個人事業主から法人化するために参考にしてください。
はじめに、設立する会社の基本事項や定款を決めます。定款とは、法人の基本事項をまとめた書類のことです。基本事項や定款で決めるべき項目は以下のとおりです。
会社の形態
商号名(会社名)
所在地
資本金
社員構成
事業目的
事業年度 など
株式会社を設立する場合、定款を作成したのちに公証役場で認証を受けます。紙の定款では4万円分の収入印紙が必要ですが、電子定款であれば印紙代は不要です。
定款の作成以外にも、会社代表者の印鑑作成や個人口座への資本金振り込みも忘れずにおこないましょう。最後に、法務局に登記申請すれば会社の設立は完了です。
法人を設立したあとは、管轄の税務署に届け出をする必要があります。税務署には、以下の書類を提出してください。
法人設立届出書
青色申告の承認申請書
給与支払事務所等の開設届出書
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
社会保険に加入するためには、年金事務所に以下の書類を提出しましょう。
健康保険 厚生年金保険新規適用届
健康保険 厚生年金保険被保険者資格取得届
健康保険被扶養者(異動)届
従業員を雇うときは、労働基準監督署やハローワークで労働保険への加入手続きをする必要があります。
法人設立の手続きを終えたあとは、個人事業主の廃業手続きをおこないます。個人事業と法人で業務内容が同じ場合、利益相反とみなされ会社法違反となるため、忘れずに手続きしましょう。
廃業手続きは、税務署に個人事業の開業・廃業等届出書を提出してください。
会社を設立した場合、個人事業の資産を引き継ぐ必要があります。引き継ぐことが可能な資産は以下のとおりです。
固定資産
棚卸資産
売掛金
土地
建物
資産を引き継ぐためには、法人への売買や出資、賃貸借する方法があります。また、銀行や事務所の賃貸借契約の名義も変更しましょう。
個人事業主が廃業までに得た収入は確定申告をする必要があります。資産を法人に売却したときや出資したときは、お金や株を受け取るため、利益が出ている場合はこれらの分も確定申告しなければなりません。
課税事業者ならば、消費税の申告も忘れないようにしましょう。確定申告で困ったときは、税務署のスタッフや税理士に相談するのがおすすめです。
法人化してから仕事をスムーズに進めるためには、以下のポイントをおさえておきましょう。
オフィスレイアウトの変更
法人の口座・クレジットカードを作成
業務のDX化
オフィスレイアウトを工夫することで、業務効率を上げることが可能です。従業員を雇う場合、連携しやすいレイアウトにすれば連絡を取りやすくなり、効率よく業務を進められるようになるでしょう。
オフィス移転を検討している場合は、サービスオフィスを利用するとコスト削減につながります。サービスオフィスは、受付や共用スペースなどがすでに設置されているため、内装コストなどを抑えられます。
サービスオフィスを探すときには、サービスオフィス.JPの利用がおすすめです。サービスオフィス.JPは一度に複数のサービスオフィスを比較検討できるサイトです。
仲介手数料もかからないため、オフィスの移転でできる限りコストを抑えたい場合は、ぜひサービスオフィス.JPをご利用ください。
法人の口座やクレジットカードを作成すると、個人事業主にはないメリットを得られます。法人口座を作成するメリットは以下のとおりです。
お金の流れがわかりやすくなる
社会的な信用度が上がる
借入金額が高くなる
法人口座の開設によって、会社のお金の流れをひと目で把握できるようになります。また法人口座があることで、法人として活動している事実が取引先にわかるため、信用を得やすいでしょう。個人口座より借入金額が高くなり、資金調達しやすくなるメリットもあります。
法人カードを作成すると以下のようなメリットを得られます。
経費精算業務の負担を軽減できる
経費削減につながる
ビジネスで役立つ付帯サービスがある
法人カードで仕事関連の支払いを一本化すれば、毎月の経費をまとめて確認できるようになります。さらに、まとめて指定口座から自動引き落としされるので、振込手数料の削減にもつながるでしょう。
DXの推進によって業務効率を上げることが可能です。経済産業省では、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 引用元:デジタルガバナンス・コード2.0 |
DXとは、企業活動全体にデジタル技術を活用し、企業内部の環境やビジネスモデルを変革して、新しい価値を創造する取り組みといえるでしょう。
業務のDX化によって、以下のようなメリットが得られると考えられます。
ルーティンワークの自動化により作業時間が短縮する
データのデジタル化でテレワークを実現しやすい
作業のデジタル化で作業速度が上がりミスの削減につながる
書類のデジタル化やITツールの導入など、比較的やりやすいDX化から始めてみましょう。
個人事業主から法人化すれば、取引先からの信用度が上がり、仕事をもらいやすくなります。ほかにも税金や経費、社会保険などにおいてもメリットがあるため、所得の高い個人事業主は法人化することも少なくありません。
しかしながら、赤字経営でも税金の負担があり、法人化の手続きには費用が発生します。個人事業主より事務作業が煩雑化するデメリットも考えられるでしょう。
法人化の手続きは複雑なので、専門家に相談するのがおすすめです。法人化によってオフィス移転を検討している場合は、サービスオフィスの利用がおすすめです。サービスオフィスであれば、初期費用を削減できます。
サービスオフィスを複数棟、比較検討できます。
気になる物件を選び、条件や設備などの違いを確認してみましょう。一覧表で比較ができる便利な機能です。比較資料としてご利用ください。