個人事業主が家賃を経費にする方法|メリットや計算方法も解説

個人事業主が自宅をオフィスにする際は、家賃の一部を経費とすることが可能ですが、そのためには条件があります。本記事では、個人事業主が家賃を経費にできる条件や計上方法を詳しく解説するほか、家賃が計上できないケースや注意点も紹介します。

個人事業主になって青色申告を選ぶと、白色申告と比べて経費として計上できる範囲が広がります。勘定科目に地代家賃があるのを見て、「住んでいる家の家賃も経費にできるの?」と疑問に思う人も多いでしょう。

結論からいうと、自宅で仕事をする個人事業主は家賃も経費として認められます。ただし、経費に認められるには条件があるため注意が必要です。

本記事は、個人事業主が家賃を経費にできる条件や計上時の計算方法などを詳しく解説します。家賃が計上できないケースや注意点についても説明しているので、確定申告や帳簿作成に役立ててください。


個人事業主は家賃を経費にできる?

個人事業主は、家賃を経費として計上することができます。ただし、自宅を事務所として使用する場合、経費にできるのは家賃の一部のみです。この章では、家賃を経費として計上する方法を解説します。


自宅兼事務所は家賃の一部を按分する

住んでいる賃貸住宅を自宅兼事務所として使用する場合、家賃も必要経費として認められます。しかし、家賃の全てを経費にすることはできません。

家賃を経費計上するときは、事業に使用している部分だけを計上します。家賃など事業以外にも使用するものの費用を家事関連費といい、事業に使用する部分とそうでない部分に分けて計上することを按分といいます。

家賃の家事按分率は20〜40%程度が一般的です。詳しい計算方法については「家賃を経費として計上するときの計算方法」で後述します。


事務所の賃料は全額計上できる

事業のみに使用される事務所の賃料は経費として全額計上できます。

賃貸オフィスや事務所の賃料はもちろん、事務所用に借りた賃貸住宅の家賃も計上可能です。ただし、賃貸住宅を事務所として使う場合は、賃貸住宅の契約内容に反しないか注意しましょう。


また、サービスオフィスなど、フレキシブルオフィスの使用料も経費にできます。サービスオフィスを検索・比較したいなら、こちらのサイトをご覧ください。

Service Office.jp


家賃や賃料の勘定科目・仕訳方法

家賃や賃料に使った経費の勘定科目は地代家賃です。事業にのみ使用される家や事務所の家賃や賃料は、全額を地代家賃として計上しましょう。

自宅の家賃を経費にする場合は、事業に使う部分の勘定科目を地代家賃、家事に使う部分を事業主貸として仕訳します。事業主貸の部分は、計上した地代家賃から振り替えて仕訳をし、経費に含めることはできません。


例えば、月10万円の家賃の20%を按分して計上する場合、仕訳は以下のようになります。

借方

金額

貸方

金額

地代家賃

20,000円

現金預金

100,000円

事業主貸

80,000円




家賃を経費にできないケース|いくらまで?割合は?

自宅を事業に使っていたとしても、家賃を経費として計上できない場合もあります。経費計上できないケースは次の3つです。

  • 按分の根拠が明確でない場合

  • 事業用部分が50%に満たない白色申告者

  • 生計を一にする親族などに支払う家賃・賃料


なぜ計上できないのか、詳しく解説します。


按分の根拠が明確でない場合

明確な根拠がない場合は、家賃を経費として計上できません。按分の割合は個人事業主が自分で指定して計算できますが、根拠なく何%と決められるわけではないため注意が必要です。

実際に家賃を按分して計上する場合、事業に使っていることや使用する時間、面積などが証明できる資料が必要です。税務署に指摘された際に困らないよう、按分の基準は明確にしておきましょう。


事業用部分が50%に満たない白色申告者

青色申告と白色申告では、按分して計上できる割合が異なります。

青色申告では計上の条件はありませんが、白色申告の場合は事業用に按分される割合が50%以上でないと、基本的には経費にできません。事業割合を明確に区分できるなら計上できる場合もあります。

一般的に、自宅を事務所として使用する場合の按分率は20〜40%ほどです。つまり白色申告者の場合、家賃を計上できないケースも珍しくありません。家賃を経費にしたいなら、青色申告を選んだほうがよいでしょう。


生計を一にする親族などに支払う家賃・賃料

家賃や賃料の支払先によっても計上できない可能性があります。家族や親戚が持つ物件に対して家賃・賃料を支払う場合は、生計を一にしているかが条件になります。

親族などに支払う家賃は、生計を一にしている場合は経費になりません。支払いがおこなわれても生計が一であれば、デメリットなく経費として節税できてしまうためです。

一方、支払先が親族などであっても、生計が分かれている場合は経費にすることができます。勘定科目や按分方法などは自分で支払う家賃や賃料と同じです。


家賃を経費として計上するときの計算方法

では、実際に家賃を経費計上する際の計算方法を解説します。按分の方法は、使用する時間での按分と使用する面積での按分の2種類です。また、年間の家賃をまとめて按分する方法もあります。詳しくみてみましょう。


使用する時間で計算

まず、使用時間で按分する方法があります。この方法は、仕事をする部屋や場所が決まっていない場合に有効です。ワンルームなど、部屋を分けられない場合もこちらで計算しましょう。


按分率の計算の手順は以下のとおりです。

  1. 自宅を月に何時間事業に使っているか(事業に用いる時間)を計算する
    [1日あたりの自宅で事業をする時間×1ヵ月あたりの自宅で事業をする日数]

  2. 1ヵ月あたりの自宅を事業に使う時間の割合を計算する
    (1ヵ月30日として720時間で概算)
    [事業に用いる時間÷720]

  3. 経費にできる金額を求める
    [1ヵ月の家賃×割合]

2で求めた割合が按分率です。自分のケースに当てはめて、実際に計算してみてください。


使用する面積で計算

次に、面積で按分率を計算する方法を解説します。この方法は、自宅の一室のみを仕事に使用している場合や、1階を事務所としている場合など、いつも決まった場所で仕事をする人におすすめの計算方法です。


計算式は次のとおりです。

[事業用に使用する面積÷自宅の総床面積]

このように、面積で計算するほうが時間で計算するよりもシンプルに計算できます。面積がわからない場合は賃貸のオーナーや不動産会社に尋ね、明確な数字が載った資料をもらいましょう。


年間の家賃をまとめて按分もできる

地代家賃の按分は、毎月の支払いごとに1ヵ月単位で計上する方法と、1年間の家賃をまとめて按分して計上する方法の2種類あります。

年間の家賃を按分したほうが、計算が楽になる点はメリットです。しかし、毎月事業に用いる時間が異なる場合は、月ごとに按分率も異なります。正確に計上するためには、1ヵ月ごとに計算したほうがよいでしょう。


持ち家は減価償却費として計上

賃貸住宅ではなく持ち家に住んでいる場合も、住宅にかかる一部の費用を按分して計上できます。計上できる費用は次のとおりです。

  • 持ち家の減価償却費

  • 住宅ローン金利

  • 固定資産税

  • 管理費・修繕費

  • 火災保険料・地震保険料

持ち家は主に減価償却費として計上される部分が大きいです。建物の取得価格に法定の耐用年数償却率をかけた額を毎年経費として計上できます。

ただし、減価償却費を含め、持ち家で計上できる費用も按分する必要があるので、按分率をかけるのを忘れないようにしましょう。


個人事業主が家賃を経費にする際の注意点

家賃を経費にする際は、次のような注意点があります。

  • 契約書などの資料はなくさずに保管しておく

  • 敷金は経費にならない

  • 社宅の契約は事業者名義にする

  • 持ち家の計上で住宅ローン控除が適用できない可能性

  • 持ち家のローンの元本部分は経費にならない


住居に関連する費用でも計上できなかったり、計上すると損になったりするケースもあります。以下で詳しくみていきましょう。


契約書などの資料はなくさずに保管しておく

賃貸契約書や家賃の支払を証明する資料や間取り図など、金額や按分の根拠にした資料はなくさずに保管しておきましょう。

自宅家賃を計上するには、明確な根拠が必要です。万が一税務署に根拠を説明することになっても慌てないように、必要な資料はまとめておくとよいでしょう。

面積がわからない場合は、家のオーナーや不動産会社に相談することもおすすめです。相談でわかった内容も書類にまとめておきましょう。


敷金は経費にならない

家賃の他にも、賃貸契約にかかる礼金や管理費など、さまざまな費用を計上できます。しかし、契約時に支払う敷金は経費にならないので誤って計上しないようにしましょう。

敷金は契約時に支払いますが、多くの場合退去時に戻ってきます。返済されるお金は預け金とされ、経費計上はできません。また、礼金は地代家賃として処理できますが、全額費用処理できるのは20万円未満のものに限られます。


賃貸契約に際して支払う費用のなかで、経費として認められるものは次のとおりです。

  • 家賃

  • 管理費・共益費

  • 仲介手数料

  • 火災保険料

  • 礼金(20万円未満の場合)

いずれも按分率で計算が必要です。


社宅の契約は事業主名義にする

従業員を雇って社宅を用意する場合、個人事業主名義で借りると家賃の全額を経費として計上できます。

従業員が住む家だからと、従業員名義で契約してしまうと計上が難しくなります。事業主の名義で賃貸契約を結び、転貸借で新たに事業主と従業員での賃貸契約を結び直しましょう。

また、法人の場合は自分の家を社宅として経費計上することもできます。しかし法人成りしていない個人事業主は、自宅を社宅にすることはできません。


法人と個人事業主の違いを解説したこちらの記事もおすすめです。

個人事業主と法人のどちらで起業する?違いやメリットデメリットとは


持ち家の計上で住宅ローン控除が適用できない可能性

持ち家の減価償却費や固定資産税などを経費として計上する場合、按分率によっては住宅ローン控除の適用対象外になる恐れがあります。

住宅ローン控除は、個人の住宅に対して適用される制度です。国税庁によると、住宅ローン控除適用の要件は「取得した住宅の床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること」と定められています。

つまり自宅の面積のうち、事業に使う面積が50%を超えると控除の対象外になります。経費を面積で計算し、按分率が50%を超える場合は住宅ローン控除が受けられません。


持ち家のローンの元本部分は経費にならない

住宅ローンは、元本部分と金利をあわせて返済します。持ち家の住宅ローンのうち、経費にできるのは金利部分のみです。元本部分は借入金の返済であり、経費とは認められないので計上できません。

返済額の詳細は、借り入れている金融機関で確認できます。固定金利の場合は計算しやすいですが、変動金利で途中で金利が動いている場合は注意して計算しましょう。


家賃以外で家事按分して経費にできるもの

家賃以外にも、水道光熱費・通信費・自動車関連費用などは家事按分で経費にできます。以下で各要項ごとに経費にできるポイントをみてみましょう。


水道光熱費

水道光熱費は事業に使った分を按分して計上できます。計上する際は、使用した時間や使用量での按分が一般的です。

とはいえ家賃と比べると、面積や時間で按分率を割り出すのが難しいかもしれません。計上する際は事業に一切使用しなかった場合、経費にした分の使用料が下がるかを目安にするとよいでしょう。


通信費

通信費には、携帯電話の使用料金・インターネットの通信料金などが含まれます。経費計上する場合は、事業で利用した時間で按分するとよいでしょう。

携帯電話を主に使用して仕事をする場合は、事業用の携帯電話を契約したほうが仕訳が簡単です。必要に応じて事業専用のものを導入すると、プライベートの費用と分けて考えられるので、経費の管理が楽になります。


自動車関連費用

事業に自動車を使用する場合、自動車に関連する費用も経費として計上できます。例えば次のような費用が含まれます。

  • 自動車本体の購入費用

  • ガソリン代

  • 高速道路料金

  • 車両保険料

  • 自動車税

  • 車検費用

なお、移動時に使ったコインパーキング代は、旅費交通費の科目で計上しましょう。


家賃の経費計上に関するQ&A

家賃を経費計上する際によくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。


領収書なしで家賃を経費にできる?

家賃を経費として計上するには、経費として明確に認められる根拠がなければなりません。しかし家賃の支払いには領収書が作成されないことも多いです。

領収書がない場合でも、家賃の支払いをした事実と金額が確認できる資料があれば、経費にすることができます。

資料として認められるのは、引き落とし金額が記載された通帳のコピー、賃貸契約書、振込明細書などです。税務署に提示を求められても慌てないよう、まとめておくとよいでしょう。


夫名義で支払っている家賃は経費にしてもいい?

妻が個人事業をしていて、夫名義で契約している自宅を事務所として使うケースもあるでしょう。夫名義つまり配偶者名義で家賃を支払っている場合も経費として計上できます。

税法上では、夫が支払った家賃も生計を一にする妻の経費として認められます。この場合の勘定科目は事業主借です。妻が夫に事業に使用した分の家賃を支払っているイメージで処理します。


家賃はいくらまで経費にできる?金額の目安や根拠は?

家事按分して経費を計上する場合の明確なルールはなく、いくらまで経費にできるなどの上限もありません。

明確な根拠があれば、按分率は自分で決められます。税務署は業種ごとに経費の目安をデータとして持っているので、あまりにかけ離れた金額で提出すると根拠の提出を求められるかもしれません。計算方法や根拠はメモしておき、一度決めたルールは継続するようにしましょう。

ただし、住宅ローン控除を使っている場合の持ち家の按分や、白色申告者の家賃按分には基準が設けられています。計上しないことを選んだり青色申告を選んだりすることで、損を防ぐことができるでしょう。


まとめ

個人事業主は、家賃も経費として計上できます。事業に用いている根拠があれば、毎月の家賃の一部を経費にできるので節税のメリットも大きいです。

ただし、家賃を計上する場合は、事業用の部分と家事用の部分で費用を按分する必要があります。按分率は使用面積や使用時間などで計算でき、地代家賃として仕訳が可能です。

計算や会計処理がやや面倒ですが、根拠と決まったルールを持って按分すれば、万が一税務署に指摘されても焦らずに済みます。

もし家賃を経費計上する利点があるなら、家賃を経費にして少しでも節税をおこなっていきましょう。



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