女性の働き方改革を推進することは、働く女性側・企業側の双方にメリットがあります。本記事では、働き方改革によって女性が活躍できるようになったのかや、女性の問題点、離職率が高い場合のリスク、助成金について解説するので、ぜひ参考にしてください。
「女性をもっと多く採用したい」「女性にも仕事で力を発揮してほしい」と考えている企業も多いのではないでしょうか。女性の社会進出には、企業側と働く女性側の双方にメリットがあります。しかし、女性の活躍を妨げる問題が残っていることも事実です。
本記事では、働き方改革によって女性の活躍は可能になったのかや女性が直面している問題点、女性の離職率が高くなるリスク、女性を採用するメリットについて解説します。
女性向けの働き方改革や企業が利用できる助成金も紹介しているので、女性を積極的に採用したい企業担当者はぜひ参考にしてください。
働き方改革によって女性の活躍は可能になった?
働き方改革では、女性の社会進出を大きな柱としています。ここでは、働き方改革が女性の働き方にどのような影響を与えたのかを見ていきましょう。
働く女性は増えている
女性の就業率の推移を見ると、社会に出て働く女性の割合が大きく増加していることが分かります。平成前期では、女性就業者の割合が50%台を推移していましたが、平成後期になると20%近く上昇して70%を超えています。
働く女性が増えた背景にあるのが、少子高齢化に伴う労働力の不足と世帯年収の減少です。女性を労働者として求める企業が増え、生活に必要な収入を得るために共働きを選択する女性が増えました。
女性活躍推進法が改正され、従業員数が101人以上の企業に対して以下の内容を義務づけ、女性の社会進出をさらに後押ししています。
2022年4月から働く女性の活躍を推進する行動計画の策定・届出
自社の女性活躍に関する情報公表
“参考:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」”
子育てのために離職する人が多い
全体的に見れば働く女性の割合は増えましたが、仕事と子育ての両立が困難となり、離職を選択する女性も多いです。女性の年齢別の就業率を確認すると、結婚・出産適齢期の30代前半から後半にかけていったん落ちこみ、40代を過ぎてから再び上昇しています。
女性が働きたくても働けなくなる理由は、子育てだけではありません。既婚・未婚にかかわらず、親の介護を行うために仕方なく退職を選択することもあります。
育児や介護は、男性よりも女性が負担する割合が大きいのが現状です。職場に出産や子育てに関する支援がなかったり、男性の長時間労働が常態化していたりすることも、女性を社会から遠ざける要因になっています。
働き方改革が進みにくい?女性が直面する問題
女性の働き方改革が進まない要因はどこにあるのでしょうか。ここでは、働く女性の多くが抱える問題について詳しく解説していきます。
制約によって働きたくても働けない
出産を経験した女性の多くは、子どもが制約となって自由に働けなくなります。子どもとの時間を大切にするために、時短勤務を選択する女性も多いです。子どもを預ける保育園が決まらなければ、仕事に復帰することはできません。
ワーキングマザーの雇用形態は非正規雇用が多いです。正社員として働き続けても、昇格できなかったり簡単な仕事しか与えられなかったりするケースがみられます。出産後に就労を希望する女性の多くは、希望する働き方が実現できないという現状に頭を悩ませています。
子どもが生まれてからも働きたい女性はどれくらいいる?
国立社会保障・人口問題研究所が、2015年に行った「出生動向希望調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、15歳未満の子どもがいる無職女性の86.0%が就業に意欲を示しています。その多くがパートや派遣での勤務希望です。0〜5歳の末子がいる母親の12.4〜17.8%は、すぐにでも働きたいと考えています。
出産後の女性が就業を希望する理由は、収入面に不安を抱いているからです。また、育児で家にこもりがちになり、社会から孤立してしまうことを恐れる女性もいます。経済的や精神的な不安を解消するために、早く働きたいと考えるのでしょう。
“参考:国立社会保障・人口問題研究所「出生動向希望調査(結婚と出産に関する全国調査) 第15回出生動向基本調査結果 第Ⅱ部 夫婦調査の結果概要:第4章 子育ての状況」”
労働環境が整っていない
女性の働き方改革が進まない理由として、企業の労働環境が、子育て中の女性に対応できていないことがあげられます。以下のような労働環境だと、働きたくても働けない状況になってしまうでしょう。
長距離の転勤がある
在宅勤務が不可
出産を理由に休職すると昇進できない
フルタイムでの勤務を求められる
育児休暇が取れない
育児中の女性の雇用を推進するためには、このような問題点を解決する必要があります。勤務時間を自由に選べたり、在宅での勤務が可能になったりすれば、育児や介護に参加できる男性も増えるでしょう。
女性の離職率が高い企業が持つリスク
女性が妊娠や出産を機に退職することを軽視している企業も少なくありません。女性の離職率が高い企業には、以下のようなリスクがあります。
企業イメージの低下
コストが増える
新規採用への影響
問題を放置せず、リスクの回避に努めましょう。
企業イメージの低下
女性の離職率の高さは企業のイメージダウンに直結します。女性ばかりが辞める会社は何かがおかしいと思われて、人間関係や低賃金など労働環境の男女格差を疑われてしまうでしょう。
また企業イメージが低下すると、さまざまな不利益が生じます。消費者のイメージダウンは、売り上げにも影響が大きいです。ブラック企業というレッテルが貼られてしまえば、社員のモチベーションまで下がる恐れがあります。
コストが増える
退職した社員の代わりに新しい社員を用意するためには、1人あたり約400万円近くのコストが必要です。広告費用や面接費用だけでなく、採用後の新人教育にも時間とコストがかかります。
過去に時間や手間をかけて採用した優秀な人材を失ってしまうことは、会社にとっても大きな損失です。退職した女性が競合他社への転職に成功すれば、スキルやノウハウが流出してしまう危険性も考えられるでしょう。
新規採用への影響
女性の離職率の高さは、今後の採用活動にも悪い影響をもたらします。就活生は企業を選ぶときに離職率をチェックしています。
女性の離職率が高ければ、女性の希望者は集まらない可能性が高いです。女性を採用できなくなれば、採用率の男女差は今後もさらに拡大していくでしょう。
また、女性の離職者が増えると他の女性社員にストレスがかかり、連鎖的に退職してしまう可能性があります。一度悪い印象を持たれてしまうと、信頼を取り戻すためには多くの時間が必要です。
女性採用を積極的に行う企業側のメリット
女性を積極的に採用することで、企業側は以下のようなメリットを得ることができます。
優秀な人材を確保できる
企業が成長しイメージアップにもつながる
公的機関から支援が得られる
メリットの内容を詳しく確認していきましょう。
優秀な人材を確保できる
日本は世界の中でも女性の大学進学率が高いので、積極的に女性の採用を行えば、高学歴で優秀な人材を確保できる可能性があります。大学に進学した女性の30%近くが働いていないというデータもあるため、企業にとっては労働力を確保できる大きなチャンスです。
事務や経理など、女性が希望する職種は偏っているイメージが強いですが、知識やスキルを持ちしっかり稼ぎたいと考える女性も増えてきました。このような女性を採用すれば、仕事にも意欲的に取り組んでもらえるでしょう。
企業が成長しイメージアップにもつながる
男性ばかりでなく、女性の採用をしっかりと行っている企業は、世間からのイメージも良くなります。女性の採用率が高ければ、この会社で働きたいと考える女性の求職者数が増える可能性も上がります。
女性を積極的に採用することは、企業の成長にもつながります。昨今では、企業にも多様性や新しい視点が求められています。女性を積極的に採用することで、女性ならではの視点による生産性の向上が期待できるかもしれません。また女性が働きやすい労働環境をつくることで、社内環境の改善にもつながります。
公的機関から支援が得られる
女性の働き方改革を実践している企業は、要件を満たすことで公的機関から助成金を受け取ることができます。助成金をうまく使えば、さらに労働環境の改善を進めることができるでしょう。
助成金については、記事の後半でも詳しく解説しています。
また、女性が活躍できる環境を作った企業は、厚生労働大臣から「えるぼし」認定を受けることができます。えるぼし認定を受けた企業は公金調達の際に優遇され、認定マークを使用することで女性活躍を推進していることをアピールすることが可能です。
“参考:厚生労働省埼玉労働局「「えるぼし認定」「くるみん認定」について」”
働き方改革で注目すべき女性目線での対策とは
女性が働きやすくなるためには、どのような働き方改革が必要なのでしょうか。ここでは、女性の目線に立った働き方改革を紹介します。
出産・育児へのサポート体制を強化する
女性に対する産前産後のサポートが不十分な企業は、離職率が高い傾向にあります。出産後も復職したいと思えるように、体制を整えていく必要があるでしょう。産休や育休、時短勤務など制度の拡充や保育支援などを行えば、産後の女性も働きやすくなります。
政府は、現在7%程度しかない男性の育児休業取得率を、2025年までに30%に引き上げることを目標としています。女性をサポートする立場の男性が、育児休業を取得しやすい環境に整えていくことも大切です。
“参考:イクメンプロジェクト(厚生労働省)「イクメンプロジェクト趣旨」”
女性のキャリアアップについて考える
女性が活躍できる労働環境を作るために、キャリアアップを考えるきっかけを与える必要があります。管理職になりたい、または興味があると考えている女性は少数派です。理由としては、能力やスキルに自信がないことがあげられています。
女性に昇進を目指してもらうためには、キャリアアップを前向きにとらえてもらうことが大切です。女性管理職と話せる機会を設けたり、女性のキャリアアップを目的としてセミナーを開催したりして、管理職候補の育成を目指しましょう。
女性目線の働き方改革で企業が利用できる助成金
国や自治体では、女性目線の働き方改革を行った企業に助成金を支給しています。企業が利用できる助成金は以下の通りです。
両立支援等助成金:女性活躍加速化コース(厚生労働省)
両立支援等助成金:出生時両立支援コース(厚生労働省)
両立支援等助成金:育児休業等支援コース(厚生労働省)
両立支援等助成金:再雇用者評価処遇コース(厚生労働省)
両立支援等助成金:介護離職防止支援コース(厚生労働省)
女性の活躍推進助成金(東京しごと財団)
助成金の特徴や受け取るための条件を確認していきましょう。なお、いずれも2021年度の情報です。
女性活躍加速化コース
両立支援等助成金の「女性活躍加速化コース」は、女性が活躍しやすい職場環境を作った中小企業の事業主に支給される助成金です。企業は行動計画を作成して数値目標を設定する必要があり、目標は次の4つの区分に分類されています。
女性の積極採用に関する目標
女性の配置・育成・教育訓練に関する目標
女性の積極登用・評価・昇進に関する目標
多様なキャリアコースに関する目標
数値目標を達成した場合の助成額は28万5,000~47万5,000円です。生産性要件を満たす場合は助成額が増額され、36万~60万円となります。
出生時両立支援コース
「出生時両立支援コース」(子育てパパ支援助成金)は、男性が育児休業を取得しやすい環境作りを行っている企業に支給される給付金です。対象となる労働者の育児休業開始日の前日までに、取り組みが実施されている必要があります。
育児休暇制度を利用する男性社員が1人出た場合の支給額は、中小企業の場合で52万円、中小企業以外の場合は28万5,000円です。生産性の向上が認められた場合は、それぞれ72万円と36万円に増額されます。
また、独自の育児休暇制度を導入して男性社員が利用した場合も、金額は異なりますが助成金を受け取ることが可能です。男性の育児参加により、女性が仕事復帰しやすい状況を作れるのではないでしょうか。
育児休業等支援コース
「育児休業等支援コース」は、育児休業の取得を促す取り組みを行っている中小企業を、サポートするための助成金です。女性の職場復帰を支援する場合にも支給されます。助成金の支給を受けることができる5つの取り組みを確認していきましょう。
3ヶ月以上の育児休業を取得させた場合
育児休業終了後に6ヶ月以上雇用している場合
以前から雇用する従業員が代替で業務を行なっている場合
代替要員を確保した場合
育児支援制度を導入して対象者が復帰後に利用した場合
助成額は育休取得時に28万5,000円、職場復帰時に28万5,000円です。生産性要件を満たしている場合は、それぞれ36万円に増額されます。
再雇用者評価処遇コース
「再雇用者評価処遇コース」は、妊娠出産や育児、介護を理由に退職した社員が就業可能になったときに、再雇用制度を導入して採用した企業に支給される助成金です。対象となる労働者の要件を確認しておきましょう。
妊娠出産や育児、介護を理由に退職し、再雇用制度を利用して採用されていること
退職前または退職後に再雇用の希望を書面で申し出ていること
退職前日までに1年以上の雇用期間があること
採用日が退職日の翌日から起算して1年以上経過していること
再雇用制度に基づいた処遇や評価を受けていること
採用日から期間に定めのない雇用契約を締結していること
助成額は再雇用1人目が38万円、2〜5人目が28万5,000円です。再雇用後半年経過後と1年経過後の2回に分けて支給されます。
介護離職防止支援コース
「介護離職防止支援コース」は、介護休業の取得や職場復帰時の支援を行なった中小企業に、助成金が支給される制度です。助成金の対象となる取り組みを見ていきましょう。
労働者と面談を行ったうえで介護支援プランを作ること
介護支援プランによって支援することを就業規則などで周知すること
介護休業を5日以上取得させること
介護両立支援制度の中から1つ以上の制度を導入、利用させること
助成額は介護休業取得時に28万5,000円、職場復帰時に28万5,000円、介護両立支援制度の導入と利用時に28万5,000円です。生産性の向上が認められた場合は、それぞれ36万円に増額されます。
両立支援等助成金の5つのコースについてより詳しく知りたい方は、厚生労働省の「事業主の方への給付金のご案内」のページをご覧ください。
女性の活躍推進助成金(東京しごと財団)
「女性の活躍推進助成金」は、公益財団法人東京しごと財団が行っている助成金制度です。女性の新規採用や職域の拡大を目指し、女性専用設備を整備した中小企業向けのもので、対象となる設備は以下の通りです。
トイレ
更衣室
休憩室
ベビールーム
仮眠室
ロッカー
これらの設備を導入した場合は、費用の限度額を500万円として3分の2まで助成されます。この助成金の募集は終了していますが、女性の活躍支援に関する助成事業を定期的に行っています。
なお、本記事で紹介した助成金の申請手続きで不安がある場合は、社会保険労務士に相談するとよいでしょう。
まとめ
日本では少子高齢化や世帯年収の減少などの理由により、女性の就業率が右肩上がりに増加しています。働く女性の数は着実に増えていますが、出産や育児による離職率の高さや労働環境の悪さなど、女性の就業に関する問題は根強く残ったままです。
女性の積極採用にはリスクがあると思われがちですが、企業側にも女性側にもたくさんのメリットがあります。女性を採用するためには、労働環境の整備が必要です。働いている女性の目線に立った働き方改革の目標設定や具体策を考えましょう。
政府は女性の雇用を推進するために、働きやすい環境作りに取り組んでいる事業者に助成金を給付しています。制度を積極的に利用してコストを抑え、女性にとって理想的な労働環境の実現を目指しましょう。
サービスオフィスを複数棟、比較検討できます。
気になる物件を選び、条件や設備などの違いを確認してみましょう。一覧表で比較ができる便利な機能です。比較資料としてご利用ください。