2019年に始まった働き方改革は、さまざまな人の働く形を考慮し、多様な働き方を選択できる改革として、各企業で徐々に取り入れられています。本記事では改革の実情が気になる方に向け、実在企業から働き方改革のユニークな事例をご紹介します。
2019年に始まった働き方改革は、さまざまな人の働く形を考慮し、多様な働き方を選べるようにするための改革として、各企業で徐々に取り入れられています。しかし、各企業の働き方改革の実情はどのようになっているのか、多くの人が切実に気になるはずです。
そこで本記事では「本当に多様な人が働きやすい環境が作られているのか?」「具体的にどのような取り組みがあるの?」という方に向け、実在企業から働き方改革のユニークな事例をご紹介します。大企業から中小企業までさまざまな事例を紹介するので、実際にどのような効果がある改革となっているのか、ぜひご覧ください。
働き方改革とは?
そもそも働き方改革とは、どのような改革内容であるかご存じでしょうか。まずは「働き方改革」がどのような取り組みか、また本法案の課題などから解説します。
一億総活躍社会に向けた取り組み
働き方改革とは、政府が一億総活躍社会に向けて掲げている目標で、正確には2019年4月に施行された「働き方改革関連法案」を指します。改革が導入された背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少や、育児・介護といった事情を抱えて働く人が増えたことがあります。より働きやすい環境や多様性が、社会的に求められていることが関係しているのです。
日本では定時にオフィス出社することなど、場所や時間など「働く条件」が長年固定化してきました。しかし働く形を見直すことで、多くの人の生活を考慮しつつ、より生きやすい社会を目指しています。同時に個人の働きやすさを高めることによって、生産性を高めていく狙いもあります。
厚生労働省が発表した具体的な内容は以下の通りです。
「働き方改革」はこの課題の解決のために、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人一人がより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
”引用:厚生労働省「「働き方改革」の目指すもの」より”
要約すると、さまざまな職種・環境で働く多くの人が、自由により良い環境で働ける社会を目指すという改革案です。2019年4月以降、関連法も順次施行されています。
3つの課題
働き方改革では、以下の3つの課題が挙げられています。それぞれの課題について考えてみましょう。
長時間労働の見直し
正規と非正規の格差解消
高齢者の就労促進
長時間労働の見直し
日本では努力することを美徳とする美しい文化がありますが、労働環境では悪い意味で長年作用してしまっている部分もあります。それが長時間労働や残業が常態化している一面です。
このような慣習は働く人の生活を固定化してしまうため、家庭がある人や家族を介護している労働者などへの負担が大きくなっています。
そのため、長時間労働や残業を基本とする仕組みを見直し、健康的かつ柔軟な形で労働できる形態を取り入れることが、課題の一つとして挙げられているのです。
正規と非正規の格差解消
日本では正規社員と非正規社員の格差が、賃金を含めて大きいとされています。しかし、国内で非正規社員として働いている人は決して少ないわけではありません。したがって正規と非正規との待遇の差で、就労意欲をそがれてしまいやすいのが現状です。
働き方改革では正規と非正規での待遇の差や、特に賃金やキャリアアップを望める環境に改善するといった点も課題としています。
高齢者の就労促進
日本では少子高齢化が進み、年金額も年々減ってきていることから、年齢を重ねた人でも、長く働ける環境が必要な社会になりつつあります。
実際、内閣府が発表した平成29年版高齢社会白書の65歳以上の高齢労働者へのアンケートでは、約40%以上の人が「働けるうちは無期限で働きたい」と回答しており、就労に前向きな傾向が見られています。
このアンケートからも、昔と比べて働く年齢が高まっていることが分かります。だからこそ各企業では、年齢にかかわらず働けるような環境を、社会的な仕組みとして導入していかなければなりません。
コロナ禍が与えた影響
2020年3月以降、新型コロナウイルスの影響によって働き方改革も大きな影響を受けました。特に挙げられるのは、働き方と評価方法の変化です。日本で敬遠されがちであった出社しないテレワークを導入したり、時間評価から成果評価を重視したりする形へと急速に変化が求められています。
コロナ禍がこれからも続くことを考えても、従来通りの社会構造を保つのは現実的ではないといえるでしょう。また、コロナ禍の影響にとどまらず、終息後も変化した働きやすい自由な環境を定着させることが課題です。
働き方改革のユニークな事例10選
ここからは実際の企業で取り入れられている、ユニークな改革事例をご紹介します。
朝の勤務を残業としてカウント:業務効率化と生産性アップ
社員全員在宅勤務:業務効率化と経費削減
BGMが流れるオフィス:業務効率化と快適な職場作り
6時間勤務の「ろくじろう」:生産性アップ
推しの誕生日に休める推しメン休暇:従業員の意欲向上・インプットの機会を増やす
保育料の差額を会社側が負担:子育て世代が働きやすい
振替休日制度:従業員が充実したプライベートを送りやすい
残業代をインセンティブする制度:残業で働いた分が稼げる
妊娠中の従業員の遅刻特認:妊婦である社員が働きやすい環境作り
週休3日と時短勤務の選択:経験を積んだベテラン従業員が働きやすい
以下でそれぞれの事例を詳しく解説していきます。
朝の勤務を残業としてカウント
通信事業大手のUQコミュニケーションズ株式会社が行っている働き方改革は、「朝の勤務を残業としてカウントする」という試みです。元々新規事業の立ち上げが続いた年に、社内で残業する社員が増えてしまったため、それを見直すために行われました。
朝の勤務を残業としてカウントすることをはじめ、20時以降の残業廃止、会議時間は30分以内とするなどして、全体的に働き方の効率化を図っています。これにより残業時間を平均10%減、さらに生産性をアップさせることにつながっています。
社員全員在宅勤務
システム開発事業を行う株式会社アクシアは、「社員全員在宅勤務」という大胆な働き方改革を行っています。そもそも2011年の東日本大震災で被災した社員に向けて、希望者のみ在宅勤務に切り替えており、早い段階で働き方の見方を変えていました。
その後、2020年4月から会社全体が在宅勤務に完全転換し、オフィスも完全廃止。これにより業務効率化と経費削減につながっています。
BGMが流れるオフィス
ハウスメーカーである三井ホーム株式会社では、「BGMが流れるオフィス」を導入することで職場環境を改善しています。オフィス特有の堅苦しい雰囲気をなくし、快適に仕事しやすい空気作りをする狙いがあります。
具体的には、朝はオフィスでリラックスできるようなBGMで、スムーズな始業を目指す。終業時間近くには、映画「ロッキー」の曲を流して、仕事のクライマックスを促すような取り組みです。BGM効果によって効率的に業務をこなす傾向が現れ、残業が減ることにもつながっています。
6時間勤務の「ろくじろう」
株式会社スタートトゥデイは、ファッション通販サイトで知られるZOZOTOWNを運営している会社です。そんな株式会社スタートトゥデイでは、労働時間の基本を変えて6時間勤務を可能にした「ろくじろう」というシステムを導入しています。
日本では、就業規則で8時間労働までが限度であり、基本的にその最大限の8時間労働に設定することが一般的です。しかし、それを6時間労働とすることで、より限られた時間内で効率的に仕事を進めることを目指しています。実際の効果として、1人あたりの生産率が前年比25%上昇したという成果を出しています。
推しの誕生日に休める推しメン休暇
ゲーム開発や運営を手掛ける株式会社ジークレストは、社員が好きな「推し」と呼ぶコンテンツや人の記念日に、休暇が取れる「推しメン休暇」を導入しています。アニメ、ゲーム、俳優、声優といったコンテンツが好きな社員が多い会社だからこそ、私生活を豊かに過ごしインプットを増やしてほしいという願いから始まりました。
働く活力と想像力をより多く得られる制度を導入することで、社員の意欲を高めることにつながっています。
保育料の差額を会社側が負担
フリマアプリで知られる株式会社メルカリは、「認可外保育園補助」という育児中の家庭向けのユニークな働き方改革を行っています。社員の子供が認可保育園に入れず認可外保育園に入った場合に、認可保育園との保育料の差額を会社側が全額負担してくれるというものです。子育て世代を支える嬉しい取り組みといえるでしょう。
振替休日制度
イーコマース事業などで知られるヤフー株式会社では、土曜日が祝日であった場合に、金曜日を振替休日にできる「振替休日制度」を導入しています。そうすることで社員は連休を作ることが可能となり、有益な私生活を送りやすくなっています。
残業代をインセンティブする制度
ITサービスを展開しているSCSK株式会社では、「残業代をインセンティブする制度」を取り入れています。働き方改革では「残業=なくすべきである」という考えが強いです。しかし、残業代で稼いでいる従業員は一般的に少なくありません。
そのため残業代で稼ぎを得ていた従業員は、残業代が出なくなると損をしてしまったり、生活に影響が出たりすることも考えられるのです。そこで、残業代をインセンティブする制度で残業代はカットせず、しっかりと換算することで効率的に働けるようにしています。
妊娠中の従業員の遅刻特認
保険会社である三井住友海上火災保険株式会社では、妊娠中の社員の体調を優先する「妊娠中の従業員の遅刻特認」という制度を採用しています。妊娠中の女性は予期せぬ体調不良が起きることも少なくありません。そのため就業時間をずらしてもらえるなどといった工夫は、女性にとって画期的で嬉しい働き方改革といえます。
週休3日と時短勤務の選択
中古厨房機器販売を行う株式会社テンポスホールディングスでは、勤続年数10年以上で60歳以上の社員を対象に「パラダイス制度」を作っています。この制度では、週休3日と時短勤務が選択できます。長く務めてきた社員を大切にし、社員の就労意欲の安定と、年齢が高くなった社員でも働きやすい環境作りを心掛けています。
働き方改革を導入する企業側のメリットとは?
働き方改革は、さまざまな形で多くの会社が導入しており、社員にとってメリットのある改革が多いことがうかがえます。
しかし、「働き方改革を導入するメリットは企業側にあるのか?」と気になる方も多いのではないでしょうか。そこで次に、企業側から見た働き方改革の導入メリットを見てみましょう。メリットは以下の4つです。
企業イメージのアップ
生産性の向上
優秀な人材が増える
コスト削減につながる
以下で詳しく解説していきます。
企業イメージのアップ
働き方改革を行うことで、企業はイメージアップというメリットを得ることができます。労働者を大切にする働きは社会的な信用につながるためです。働き方改革を導入しているということは、理不尽な労働環境はもちろん、社員の負担となりうる働く環境を「会社が真剣に見直している」という証明になります。
企業イメージが良くなると、取引先が拡がることや就職希望者が増えることにつながるため、企業にとって大きなメリットになるでしょう。
生産性の向上
働き方改革を行うことは、外部のイメージを向上させるだけではなく、社内の生産性を上げるメリットもあります。従業員が働きやすいように業務や環境を見直せば、それぞれの業務効率が上がり、結果的に会社全体の生産性も向上します。
ご紹介した事例でも生産率が上がったと示す企業もあるように、導入に苦労があったとしても企業としてのメリットは大きいといえるでしょう。
優秀な人材が増える
従来の固定された働き方を変えることによって、企業は優秀な人材が増えるというメリットもあります。例えば、出産・育児・介護などで働き続けられなかった人の中には、優秀な人材も含まれています。そんな人達が快適に働ける環境にすることで、逃していた優秀な人材を再び確保することができるようになるのです。
優秀な人材を確保することも生産性向上につながるため、企業にとって重要なポイントとなりえます。
コスト削減につながる
企業の純粋なメリットとして、改革することでコスト削減にもつながるという点が挙げられます。
例えば働きにくい非生産的な職場では、企画進行が遅く残業も増えてしまいます。つまり従業員の労働時間が多いために、人件費やオフィスの電気代などのコストが多くかかってしまうのです。
しかし、働き方を改革して働きやすい環境へ変えることができれば、業務の効率化や残業の削減などにつながるため、結果的にコストを減らすことができます。
働き方改革はまず何から始めたらいい?
働き方改革から得られるメリットは大きく、これからの企業のあり方として必要不可欠となってきています。では改革を進めるには、まず何から始めればよいでしょうか?
働き方を変えていく第一歩としては、以下の3つのポイントを考えていきましょう。
労働時間の見直し
年次有給休暇の扱いの見直し
同一労働同一賃金
労働時間の見直し
まずは、基本的な労働時間の見直しから始めることがおすすめです。現時点で何時間の労働時間を取っているのか、残業がどれほど出ているのかを把握したうえで、改善点を考えていく必要があります。
例えば家庭がある・介護が必要な家族がいる・持病があるなど、何らかの事情を抱えた従業員が多いとします。その場合は、始業と終業を従業員が決められるフレックスタイム制の導入などを検討する余地があるでしょう。
また、残業が多すぎる場合は残業を減らす策を立てる、逆に残業代をインセンティブすることを検討するなどして、無為な残業で従業員の意欲を削がない工夫が必要です。
年次有給休暇の扱いの見直し
次に年次有給休暇の扱いの見直しを行うとよいでしょう。
近年まで有給休暇は、従業員が申し出なければ取得できないのが普通でした。さらに企業によっては有給休暇を取りにくい風潮もあるため、休暇の消費率が低いことが社会問題となっていました。
しかし2019年4月以降、労働基準法の改正で「法定の年次有給休暇付与数が10日以上になる全ての従業員に、毎年5日の年次有給休暇を確実に取得させなければならない」という法律に変わっています。
そのため、有給休暇に消極的だった企業は考えを改めていく必要があります。有給休暇を不利益扱いすることが禁止になったため、従業員が取得したのを理由に評価を下げるような構造にならないように、留意しておく必要があるでしょう。
同一労働同一賃金
正規社員と非正規社員の賃金格差をなくす、同一労働同一賃金を取り入れる必要もあります。正規・非正規の扱いの差によって、それぞれの労働者の意欲を削がない会社作りをするためはもちろん、労働法の改正があった関係でも必ず改革の必要があるのです。
具体的には、2020年4月よりパートタイム有期雇用労働法が改正されています。これにより正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に、不合理な待遇の差を作ることが禁止されました。もし非正規社員に待遇差についての説明を求められたら、会社は説明責任を追わなければなりません。
そのため、これから働き方改革をしていくのなら、賃金をはじめ福利厚生についても、大きな差をつけないようにする必要があるでしょう。
まとめ
現在働き方改革を取り入れた企業は多く、大企業であるほどユニークで画期的な改革を行っている傾向があることがわかります。働き方改革には、必ずしもユニークな案が必要なわけではありませんが、従来の体制から思い切った改革が必要な場合もあるでしょう。
本記事を通し、従業員と企業それぞれが「より理想的な働き方とは何か?」について、ぜひ考えてみてください。
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