新規事業の立ち上げを具体的な行動計画に落としこむまでには、さまざまな分析や情報収集、プロセスが必要です。そこで、スムーズに新規事業の立ち上げを行うためのポイントやリスク、活用できるフレームワーク、助成金・補助金について解説します。
新規事業の立ち上げには何が必要なのか悩み、実際の行動に移せず困っていませんか。
この記事では、新規事業の立ち上げをスムーズに行うために必要なプロセスや、効率よく思考整理が行えるフレームワークなど、成功のためのポイントを解説します。
また注意したいリスクや、コストの悩み解決に役立つ可能性のある補助金・助成金についても紹介します。新規事業の立ち上げで悩んでいる方は参考にしてみてください。
やみくもに新しいアイデアを見つけるだけでは、自社の強みを生かす機会を失ってしまいます。機会を見失わずに新規事業を立ち上げるためには、準備をしっかりと行うことが大切です。ここでは新規事業を立ち上げるためのプロセスを解説します。
自分たちが抱える課題や顧客から求められている商品・サービスなどの需要は、新規事業のアイデアとして大いに活用できます。課題を解決できる事業を計画できれば、市場とのミスマッチにより新規事業が失敗するリスクを回避しやすくなるのもメリットです。
現在の状況を分析し、自社の立ち位置や強み・弱みを明確にすることで、課題を見つけていきましょう。後半で分析の手助けになるフレームワークを解説しているので、参考にしてください。
顧客や自分たちが抱える課題をそのままアイデアにしただけでは、収益に結びつくとは限りません。どうしたら事業として成功するのかを明らかにするために、誰に向けた、どのようなビジネスなのかを定めるための事業ドメインを設定することが大切です。
事業ドメインは、主に物理的と機能的の2つの側面から方向性を決めていきます。物理的定義は、たとえば「既存事業を活用して化粧品開発会社をつくる」「業務改善のためのソフトウェアを開発する」といった、商品・サービスに直結した内容です。
一方で機能的定義は「悩みを抱えている大人をサポートする」「メイクに興味がある男性を満足させる」といった、ニーズや不満を起点としています。次のように、それぞれメリット・デメリットが異なるため、新規事業に合うものを選びましょう。
事業ドメインの種類 | 物理的定義 | 機能的定義 |
メリット | 商品やサービスが明確な事業に合う | 将来的に多角化させたい事業に合う |
デメリット | 将来的にサービスを発展させにくい | ニーズをもとにするため従業員に内容が伝わりづらい |
事業ドメインが設定できたら、新規事業で成し遂げたい理念や到達したいビジョンを明文化し、チームメンバーや携わる従業員へ共有します。最終的に何を達成したいのかが明確にならないと、個々の判断にぶれが生じたり、モチベーションが低下しやすくなったりするためです。
ビジョンが明文化されたら、事業の成功率を高めるための環境を整えていきます。たとえば、新しいサービスを提供するために必要な機能を持つソフトウェアを導入したくても、十分な予算がなければ実行できません。こうした「成功率を下げる要素」を見つけ出し、事業化に必要な環境を整えていきます。
環境づくりのために検討したいのは、次の3点です。
市場性と事業性を検証する
経営資源で足りていないノウハウを検討する
設備費や仕入れ費用などコストを検討し調達する
新規事業には何が必要なのかを洗い出すことで、今の環境に不足しているものが明らかになります。不足しているものを整える過程も含め、事業計画を具体的なものに落とし込みましょう。
たとえば資金が不足していた場合は、銀行から融資を受ける、助成金・補助金の申請を行うといった方法が挙げられます。いつまでに、どこへ、どのように働きかけるのか現実的なスケジュールを組み、新規事業の立ち上げを目指しましょう。
フレームワークとは、考え方の枠組みのことです。方向性を決めてアイデアを創出することで、検討事項の漏れを減らし、問題解決をより良い方法で進めやすくなります。ここでは新規事業の立ち上げに活用できる4つのフレームワークを解説します。
新規事業が成功したらどのような結果をもたらすのか、どのような使命を果たすべきなのかなど、理念やビジョンを明確にする際に活用できるフレームワークです。新規事業に取り組むチームメンバー同士、理念や価値観をすり合わせるために活用されます。
構成する要素は、次の3つです。
使命(Mission):社会で実現したいこと
未来像(Vision):使命を実現したときに得られる状態
価値観(Value):大切にしたい価値観・行動決定の指針
何か物事を決める際の判断に迷ったときは、MVVによって得た理念やビジョンへ立ち返るために、1つずつ丁寧に明文化していきましょう。
自社の強みや市場における立ち位置を明らかにし、経営戦略に役立てるフレームワークがSWOT分析です。次の4項目に、自社の情報を当てはめることから始めます。
良い影響 | 悪い影響 | |
内部環境 | 強み(他社と比較して優れているところ) | 弱み(他社と比較して弱いところ) |
外部環境 | 機会(新規事業を今立ち上げるべき理由) | 脅威(新規事業を今、立ち上げると起きうるリスク) |
4項目へ情報を当てはめたあとで、戦略を練るには「強みと機会」や「弱みと脅威」など、表の情報同士を組み合わせて分析を行います。
たとえば「弱みと脅威」であれば、脅威が弱みに対し優位に立つ場合は、弱みをカバーするための経営戦略を立てる必要があると分かります。同じ内容を競合他社の成功事例で取り組んでみると、どのように脅威に対応したのか分かるため、情報収集にも役立つフレームワークです。
顧客と自社、競合他社の3つの視点から現状を分析し、新規事業をより勝算のあるビジネスプランへとブラッシュアップするためのフレームワークです。視点ごとに、次の要素を検討します。
視点 | 分析する要素 |
顧客・市場 | 市場の規模、市場の成長性、購買の意思決定を行うプロセス、ニーズなど |
自社 | 市場におけるブランドイメージ、リソース、市場シェアなど |
競合 | ライバルとなるのはどのような企業なのか、規模、市場シェアなど |
3つの視点の中でも重要なのは、顧客の視点です。市場の変化につながるだけでなく、競合他社の動きを分析することにもつながります。
2つの軸を定め、自社と競合他社を比較するためのフレームワークです。比較する項目が2つなので、自社と他社の違いが一目でわかります。さらに優位性を持てる強みや、逆に他社に負けている弱みを視覚化することも可能です。
ただし2つの軸を自社に有利なものにしてしまうと、自社の優位性が強調されすぎてしまうので注意しましょう。そのため、3C分析など他のフレームワークと組み合わせ、顧客が商品やサービスを選ぶ際に特に注目している基準を見出し、2つの軸へ当てはめることが大切です。
これまで新規事業の立ち上げを行ったことがない場合は、成功させるために準備を入念に行う必要があります。ここでは成功させるための4つのポイントを解説します。
外部環境が目まぐるしく変わる現代では、これまでの新規事業の立ち上げに活用されてきたアイデアや情報収集が、通用しない場面も出てきます。失敗するリスクを少しでも減らすためには、外部のプロをメンバーに取り入れることも検討してみましょう。
新規事業の立ち上げまでには、大きく分けるとアイデアを創出する段階と、事業を軌道に乗せるまでの段階があります。たとえばアイデアを創出する際に、他業界への進出も検討しているのであれば、経験のあるコンサルタントを活用するのもよいでしょう。
またWeb上で活用するシステムを新規に作りたい場合には、IT系に特化したコンサルタントを利用するのもおすすめです。保守作業まで手掛けてもらうなど、ポイントを絞った活用を行えばコスト削減にもつながります。
これまで自社が培ってきた技術やノウハウ、スキルが全く通用しない事業を選んでしまうと、リスクもそれだけ大きくなります。リスクを抑えながら、顧客ニーズを満たす商品・サービスを作り出すためには、自社の強みが活かせる事業を選ぶようにしましょう。そうすることで競合他社に対して優位性を得ることにもつながります。
強みを明らかにするためには、顧客が「自社を選ぶ理由」を明確にするための分析が必要です。分析結果を既存事業にも活用することで、さらに質の高いビジネスを提供することも期待できるでしょう。
経営者やチームのリーダーとして注目したいのが、従業員のモチベーションを上げる仕組みを作ることです。
新規事業の立ち上げにはリスクが伴い、なかなか結果を出せずに苦しい思いをすることもあります。収益が出ずに不満を抱いたり、何を目的に新規事業に取り組んでいるのか、ビジョンを見失って苦しんだりする従業員は少なくありません。
対策として事業の目標を提示するほか、新規事業の立ち上げだからこその評価の基準やインセンティブの設定も、明確にしておきましょう。どう取り組めば評価が上がるのかが分かれば、従業員もモチベーションを維持しやすくなります。
新規事業の立ち上げに、大勢の従業員やコストをいきなり投入してしまうと、最終的に軌道修正が難しくなりかねません。そこで、少ないコストで実施して最低限のプロトタイプを作り、顧客の反応を確認して新規事業を改善していく「リーンスタートアップ」を取り入れることをおすすめします。
最小限のプロトタイプを何度も行うことで、たとえ失敗しても次のチャレンジを継続しやすく、ターゲットの切り替えや事業からの撤退が柔軟に行えるのもメリットです。
新規事業の立ち上げは、必ずしも成功するとは限りません。次の3つのリスクがあることを忘れずに、その都度準備を行い、時には事業から撤退することも求められます。
事業の撤退ラインを決めずに新規事業を継続した結果、赤字が膨らんで既存事業にも影響を及ぼし、倒産する可能性があります。企業が倒産してしまえば負債を抱え、次の事業への投資も行えなくなるため、避けたい状況です。
撤退する基準の決め方として、次の2つのポイントが挙げられます。
商品開発や新規事業自体が企業にとってどれだけプラスになったのか
自社を取り巻く内外の環境を「SWOT分析」で再評価する
新規事業の営業利益が黒字化する可能性が低い場合は、撤退を検討したほうがよい段階です。商品開発や新規事業への取り組みが、コスト削減などを行っても赤字を生み続ける状態であれば、撤退を検討しましょう。事前にリスクが大きくなる状況を言語化して、その状況に該当したら撤退するというラインを決めておく必要があります。
チームが大きくなりすぎて個々の意見が反映できなくなると、新規事業の失敗につながる可能性があります。新規事業はスピーディーな対応が求められるため、人数が多すぎて意思疎通が取れないと、効率が低下してしまうことも多いためです。
コミュニケーション不足が目立つようになったり、情報伝達に必要な手間が増えたりした場合には、チームの見直しを行ってみましょう。
顧客のニーズと新規事業が噛み合わず、収益化につながらない場合があります。需要のずれが起きる要因は、主に次のような情報分析の不足です。
市場調査や情報収集が不十分だった
適切なフレームワークを使えずに分析が不足していた
コンセプトと顧客がずれてしまった
こうした需要のずれを防ぐための情報収集や、フレームワークを活用した分析を行うためには、スキルと経験が求められます。自社内では不足すると感じた際には、外部の人材を活用することも検討し、リスクを減らしていきましょう。
国や市区町村の制度を活用することで、新規事業の立ち上げに必要な経費を補い、より柔軟に進められる場合があります。ここでは新規事業の立ち上げに活用できる4つの助成金・補助金を解説します。
都内において中小企業がイノベーションマップに基づき、革新的な技術・製品開発を行う際に、最大8,000万円までの助成金が受け取れる制度です。原材料費のほか、人件費や広告費など、さまざまな経費が対象となります。
助成事業実施中には、製品開発などの経験を持つコーディネーターがサポートを行ってくれます。また開発計画を途中で変更する場合でも、対応してもらえるというメリットがある制度です。
参考:東京都産業労働局「TOKYO戦略的イノベーション促進事業 - 中小企業支援」
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中、思い切った事業再構築へ意欲を持つ中小企業を支援する制度です。補助対象要件を満たした企業で申請が認められれば、1社あたり最大で1億円規模の補助を受けることができます。
たとえば企業がDX(Digital Transformation)の取り組みを進め、コロナ前は店舗で販売していた商品を、ネット販売で扱えるシステム構築を行うといった、大幅な業態転換やデジタル化が該当します。
都内で創業を予定している企業や、創業から5年未満の中小企業を対象に、必要経費の一部を助成する制度です。創業支援事業の利用があることなどが条件となっており、下限は100万円で最大300万円まで助成が受けられます。
助成対象となる経費は賃貸料や広告費、器具備品購入費や従業員の人件費などです。
経済産業省が行う、中小企業を対象とした生産性向上を目的としたサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善などの設備投資を支援する補助金です。
応募件数も多いため、年によって採択率は30%から40%と半数を切ります。補助金額は100万円から1,000万円までで、中小企業の場合は補助率は2分の1、小規模の場合は3分の2が対象となります。
新規事業の立ち上げをスムーズに行うためには、スモールスタートでコストを抑えつつ、柔軟な方向転換が可能な状態を維持することが大切です。情報が不足していたり、コストが足りなかったりするなど、実際にスタートさせてから分かることもたくさんあります。
不足している情報が明らかとなった場合は、外部から人材を取り入れるのも手です。分析に時間がかかりすぎて、新規事業のより良い立ち上げタイミングを見過ごしてしまうこともあります。
自社の状況を把握したうえで、プロセスを1つずつこなしながら新規事業の立ち上げを目指しましょう。
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