オフィスを移転する際は、物件や工事の業者探し、スケジュール調整などやるべきことが山ほどあるため、計画が不十分だと事業に悪影響がでる可能性もあります。そこでこの記事では、オフィス移転について基本の流れやコツ、注意点を紹介します。
\この記事は、専門家監修のもと制作しています/
本記事の監修者 Seven Rich会計事務所/日野 陽一(ひの よういち) 2011年に青色申告会に入社。2015年に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。金融機関の法定監査などに携わる。2018年からはSeven Rich会計事務所に勤務し、ベンチャーやスタートアップ企業を中心に資金調達やIPOの支援、税務申告のサポート等を行っている。 |
オフィスを移転することで、従業員の生産性や通勤のしやすさ、利便性、コストなど、今後の事業に大きな影響を及ぼします。費用もかかるため、問題があとから見つかっても気軽に別の場所へ移ることはできません。初めてオフィスを移転する場合は、何から取りかかればよいのかも分からず、手探り状態で実行してしまうと失敗のリスクが高まります。
そこでこの記事では、オフィスの移転について、基本的な流れや成功させるためのコツ、注意点を詳しく紹介していきます。ぜひ参考にしていただき、スムーズにオフィスの移転を目指しましょう。
現在利用しているオフィスの規模が大きければ大きいほど、移転のハードルは高くなります。小さな賃貸の個人オフィスであっても、居住用住宅の引越しのように考えていては、計画が頓挫するかもしれません。
まずはオフィス移転の基礎知識として、かかる費用と期間、メリットやデメリットについて紹介していきます。十分な費用が用意できそうになかったり、デメリットを許容できなかったりする場合は、移転の中止も検討したほうがよいです。
オフィスの移転にかかる費用の相場は、1坪当たり数万~数十万円です。内訳は、入居や退去、内装の工事の3つに大きく分けると、次のようになっています。
入居にかかる費用 | 退去にかかる費用 | 内装工事にかかる費用 |
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一般的に敷金は賃料の3~12ヶ月分、礼金は賃料の1~3ヶ月分は必要です。敷金は現在のオフィスを退去する際に、入居時に支払った分が返還されます。よって全額用意する必要はありませんが、数百万円はかかると思っておきましょう。仲介手数料は利用する不動産会社によっては無料にでき、火災保険料は補償内容によって節約可能です。
引越し費用は従業員1人当たり3万円程度です。什器やOA機器を安全に運搬してもらうためにも、オフィス移転の専門業者へ依頼しましょう。原状回復費用は、賃貸借契約の規定で変わるため、契約書を確認してください。住所変更の諸費用は、登記手続きのほかに名刺・封筒・商品などに印字された住所を変更する際に必要です。
オフィスの内装設計や工事費用は、こだわるといくらでも高くなってしまいます。ただし業務に支障が出ないように、電力やインターネットの回線速度は確保しておきましょう。
オフィスの移転にかかる期間の目安は6ヶ月です。引越しだけなら1日で済んでも、移転先選びや内装の設計・工事があるため、長期的な計画になります。退去の予定日を決めてから、逆算して予定を埋めていくとよいでしょう。
移転先がなかなか見つからなかったり、時期によっては繁忙期で工事や引越しが思い通りにできなかったりします。慣れない作業の連続のため、余裕をもって移転を進めてください。
そもそもオフィスの移転には、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
詳細な計画を立てる前に、以下を参考に移転したほうがよいのか判断しましょう。
オフィス移転のメリット | オフィス移転のデメリット |
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移転により設備が充実したり、通勤時間の短縮などで職場環境が改善されたりすると、従業員のモチベーションが上がります。また、デスクの配置換えや共有スペースの確保でコミュニケーションが取りやすくなり、動線を見直すと業務の効率化を狙えます。
テレワークの普及などで、オフィスを縮小できればコスト削減が可能です。従業員の満足度が高いオフィスは、人材募集でも有利に働いてくれるでしょう。
デメリットである費用やリソースについては、将来的にメリットであるコスト削減や業務の効率化で回収できますが、一時的に負担になります。また従業員のことを考えずに移転してしまい、通勤時間が長くなったり周囲に飲食店がなかったりした場合は、不満がたまってしまうでしょう。
オフィス移転の流れチェックリスト
それでは実際にオフィスを移転させる流れについて、次の9項目をチェックしながら見ていきましょう
オフィスを移転させる目的の明確化
オフィス移転の計画作り
移転先のオフィス探し
現オフィスの解約準備
決まった移転先でのレイアウトを検討
専門業者に工事や什器購入の依頼
従業員に通達して引越しの準備
決めた役割分担に沿って引越し
オフィスの移転後に各種の届出
オフィス移転の目的が曖昧だと、どこに移転したらよいのかや、どの程度の広さにするのか、どのような内装にするのかなどが決まりません。明確化するために、次のような不満点のリストアップから始めてください。
現在のオフィスは家賃が高い
従業員が増えてオフィスが狭い
最寄りの交通機関から遠い
BCP対策が不十分
働き方改革をしたい
実際の作業は、トップダウンやボトムアップで意見を集約したり、プロジェクトチームが主導で経営陣に提案したりします。具体的であるほど、オフィス移転の効果を実感しやすくなるでしょう。
移転の目的が決まったら、それに合わせて計画作りをします。その際に決めるべきことは、大まかに次の3点です。
移転先の条件
移転のスケジュール
移転にかかる費用の試算
移転先の条件に関しては、ボトムアップで意見を集約すると、手間はかかりますが従業員の満足度が高いものになるでしょう。
スケジュールは、次年度の採用状況や賃料の相場などでも変わってきます。通常業務に支障がでないように、負担の割合も考えてスケジュールを組んでいきます。費用に関しては、相場や内訳を参考に試算してください。相場は時期によって変動するため、予算に余裕を持っておいたほうがよいでしょう。
移転先のオフィスは不動産ポータルサイトを利用したり、不動産会社へ依頼したりして探します。インターネットにはアップされない物件もあるため、オフィスの取り扱い実績がある不動産会社を利用すると、希望に合うところが見つかりやすいです。
オフィス探しで重要なのは、希望の条件に優先順位をつけることです。全ての希望を満たせる物件に出会えることはまれで、どこかで妥協しないと次の段階に進めません。いくつかピックアップし、責任者に最終決定をしてもらってください。
オフィスの解約は、今月オーナーに伝えて来月には出て行けるというものではありません。3ヶ月前や6ヶ月前に解約の通知が必要です。全ては既存の契約書に従わなければならないため、敷金や保証金はどうなっているのかや、原状回復はどこまで必要なのかなども確認しておきましょう。
現オフィスが定期借家契約だった場合は、基本的に途中解約はできません。途中解約する場合は、オーナーと合意のうえでも違約金が発生するケースがあります。
移転先のオフィスが決まったら、専門業者にレイアウトの設計を依頼します。建築基準法や消防法を守ることは大前提で、次のポイントを押さえてレイアウトを検討しましょう。
各部署のゾーニング
会議室や休憩室、応接室などの配置
従業員や来客者の動線
机の並びについても、従来の島型や作業に集中しやすい並列型・背面型、省スペースにしやすいフリーアドレスなど、さまざまなものがあります。2022年時点では、新型コロナの感染症対策も必要です。従業員同士が十分に距離を確保できるように、パーテーションなどで飛沫を防げるレイアウトにしてください。
レイアウトが決定したら、設計内容に従い各種業者へ見積りをとってから正式に依頼します。依頼が必要な業者は次のようなものがあります。
内装の建築工事業者
電気工事業者
セキュリティ工事業者
電話やネットワークの配線業者
必要な什器の購入業者
引越し業者
工事業者に関しては、オフィスの管理会社によって指定されることがあります。管理会社へ事前に確認をとり、任意の場合は複数社へ見積りを出して自社で選定しましょう。
各種の依頼が完了すると、細かな日程が決まり引越しの準備を始められます。少しでも荷物を減らすためにも不要なものは廃棄し、パソコンのデータは万が一に備えバックアップを取っておきます。
移転先ですぐに業務を始められるように、新しい名刺や封筒、ハンコなどを発注し、関連会社にオフィス移転の案内も出します。移転のマニュアルを作り従業員に周知を徹底しておくと、各々で準備を整えてもらえます。
引越し当日は、従業員も協力して作業を進めていきます。役割分担を決めておけば、当日に誰かが指示を出すよりスムーズに進むでしょう。引越しで積み残しや搬入トラブルを避けるために、責任者が立ち会い最終確認をしてください。
引越しのタイミングで、オフィスの原状回復の依頼も出しておきます。忘れていると予定日までに工事が間に合わず、解約に支障が出るため注意しましょう。
移転先で事業を継続するためには、次の箇所で各種届出が必要です。
郵便局:移転後すぐに郵便物届出変更届
社会保険事務所:5日以内に適用事業所名称/所在地変更(訂正届)
労働基準監督署:10日以内に労働保険名称所在地等変更届
公共職業安定所:10日以内に雇用保険事業主事業所各種変更届
法務局:2週間以内に本店移転登記申請
税務署:異動等後速やかに納税地の変更異動届出書
届出は各機関の窓口や公式HPなどから入手して、必要な項目を埋めておくとすぐに提出できます。
オフィスの移転には数ヶ月に及ぶ膨大な作業が必要で、基本的な流れを把握していても、問題がないか不安になってしまいます。あとから気づいても、やり直しは簡単にできないため、成功させるために5つのコツを詳しく見ていきましょう。
専門業者のサポートを受けオフィス移転
移転先にかかる敷金の減額
移転先にフレキシブルオフィスも検討
オフィス移転は従業員と情報の共有
移転の準備はできることから開始
オフィスの移転は頻繁に行うものではないため、社内に経験者がいないケースも珍しくありません。そのような状態でプロジェクトチームを作っても、順調に進まないでしょう。
オフィス移転に初めて挑むなら、専門業者のサポートを受けることをおすすめします。移転の計画作りからレイアウトの設計、工事や引越しの手配までトータルでサポートしてもらえます。
専門業者によっては、移転の一部業務だけでも請け負ってくれる所もあります。かかる費用などを考慮して、まずは相談だけでもしてみてください。
オフィスの移転にかかる費用の中で、家賃の数ヶ月分となる敷金の負担は重いです。しかしオーナーによっては、保証会社の審査通過で敷金を減額してくれるケースがあります。
オーナー側にとっては、独自審査をもっていなくても顧客の信用度を確保でき、万が一でも保証が付くため安心できます。減額できた資金は、移転の内装費用や事業への投資に使え、さらなる利益につなげられるでしょう。
フレキシブルオフィスとは、シェアオフィスやサービスオフィスなど、用途に合わせて1日や1ヶ月単位で契約が可能なワークスペースです。移転先としてフレキシブルオフィスを選択するメリットとデメリットは、次のようになっています。
メリット | デメリット |
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入居するときの敷金や礼金、オフィスの種類によっては内装工事が不要となり、資金的に余裕がなくても移転しやすくなります。工事が不要なことは入退去のしやすさに繋がり、移転先を決めたらすぐに引越しが可能です。テレワークに対応しやすく、従業員一人一人に合った職場環境も確保しやすいでしょう。
ただし、不特定多数の人が同じフロアを使う場合が多く、個室でないと機密情報の取り扱いに難がある点はデメリットです。また複数のフレキシブルオフィスを構えると、従業員がいつどれだけいるかが把握しにくくなるため、新しい勤怠管理の体制を用意する必要があるでしょう。
他にも、サーバールームや資料室を確保したい場合は、ある程度の広さがあるレンタルオフィスを借りなければならず、その分のコストがかかってしまいます。
オフィスの移転は、計画段階ではプロジェクトチームだけで完結しても、引越しまでの作業には従業員の協力が必要不可欠です。部署や個人でやるべきことを、周知するマニュアルなどでまとめておけば、スケジュール通りに動いてもらえるでしょう。
移転先によっては、従業員は新たな通勤ルートの確保が求められます。定期券の購入や駐車場の確保などを事前にできるように、情報を共有してください。
引越し業者に依頼しても、事前の荷造りは必要です。数日前から取りかかっていては、日頃の業務に支障がでるかもしれません。早めにダンボールなど梱包に使うものを手配し、業務に支障が出ない範囲で準備しましょう。
使用頻度の低いものから詰めていき、開封作業で困らないようにダンボールにナンバリングをしたり、入っているもののメモを残したりしてください。業務ですぐに必要になるものは、ひとまとめにして個人で運んでもらってもよいでしょう。
オフィスの移転には、さまざまなトラブルが起こります。その中でも特に注意すべき次の3つについて詳しく紹介していきます。
手続きの遅れで業務に支障
備品の故障で引越し業者とトラブル
スケジュールのズレで余計な出費
本店移転登記申請や、労働保険名称所在地等変更届などの手続きは、忘れていると罰則はありますが、業務にすぐ影響がでるほどではありません。支障がでやすいものは、電話やインターネットの回線手続きです。
申請しても、手続きが完了するまでに1週間以上かかることがあり、日常業務がまわらない可能性が高いです。長期の連休や年末年始、お盆などではさらに時間がかかります。もし忘れていた場合は、レンタルのWi-Fiなどで一時しのぎをしてください。
引越し業者へ依頼したときに、什器やOA機器などの備品が故障するトラブルもまれに起きます。しかし、保険に入っていても保証に応じてもらえないケースがあり、解決には長い時間がかかるかもしれません。
トラブルのリスクを下げるためにも、まずは荷物の引き渡し時に問題がないか確認しましょう。その場で故障を伝えても、適当に理由を付けて保証に応じないなら、費用対効果を考え、解決を専門の業者へ依頼するのもひとつです。
現オフィスの原状回復工事に時間がかかってしまうと、新旧のオフィスで契約の重複期間が生まれ、家賃を余分に支払うことになってしまいます。工事を指定業者にしか依頼できない状態だと、希望の条件で請け負ってもらえるとは限りません。
オフィス移転のスケジュール調整は多岐にわたるため、初めて担当する人には荷が重いでしょう。専門業者のアドバイスを受けながら進めると、このような余計な出費を避けやすくなります。
オフィスの移転には、規模によっては1,000万円以上かかることがあり、完了までに6ヶ月程度はかかる大きなプロジェクトです。
移転先や各種業者の選定、社内の調整、事業を継続するための手続きなどやるべきことは多く、初めて担当する人には難易度が高いです。またプロジェクトチームを組んでも、専門知識がない人しか集まらないと失敗のリスクも高いでしょう。
オフィス移転の失敗は、従業員に不満を抱かせて事業に悪影響が出るかもしれません。簡単に元の状態には戻せないため、専門家のアドバイスを受けながら計画を進めましょう。綿密なスケジュールを立てて周知しておくと、従業員も迷いなく協力してくれます。
本記事の監修者 Seven Rich会計事務所/日野 陽一(ひの よういち) 2011年に青色申告会に入社。2015年に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所。金融機関の法定監査などに携わる。2018年からはSeven Rich会計事務所に勤務し、ベンチャーやスタートアップ企業を中心に資金調達やIPOの支援、税務申告のサポート等を行っている。 |
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