法人登記が可能なレンタルオフィスは少なくありません。初期費用や手間を減らせるほか好立地であるなどメリットが豊富です。一方、賃貸オフィスと比較したときのデメリットもあります。法人登記に必要な書類やそのほかの選択肢とあわせて確認しましょう。
レンタルオフィスで法人登記できれば、起業のハードルを下げられます。しかし「レンタルオフィスで法人登記はできるの?」「デメリットはないの?」など気になることもあるでしょう。
そこでこの記事では、レンタルオフィスで法人登記する場合のメリット・デメリットをはじめ、法人登記の方法まで詳しく解説します。レンタルオフィス以外の選択肢も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
レンタルオフィスは法人登記可能なサービスが多くありますが、必ずしも法人登記できるわけではありません。契約する前に運営会社に確認をとりましょう。
なお、レンタルオフィス側の法人登記は可能であっても、業種によってはレンタルオフィスの仕様が登記の条件を満たさないケースがあります。たとえば人材派遣業の場合、20平米以上の事務所を構えることが登記の条件です。
レンタルオフィス側に確認することはもちろん、法務局や士業の専門家に相談して登記条件も確認しておきましょう。
レンタルオフィスで法人登記をする場合、費用面や立地のほかさまざまなメリットがあります。代表的な4つのメリットを見てみましょう。
開業時にかかる初期費用が、賃貸オフィスに比べて安いことがメリットです。賃貸オフィスに入居する場合、次のような費用がかかります。
初期費用の項目 | 概要 |
敷金 | 家賃の3~6カ月分が多い。退去時の原状回復費用や家賃滞納時の担保として使われる。差し引いた金額は退去時に返金される。 |
礼金 | 大家に対して支払うお礼のお金。家賃の1~2カ月分が相場。礼金が必要ない物件もある。敷金と違い返金されない。 |
前賃料・前共益費 | 入居月と翌月分の賃料・共益費。 |
火災保険料 | 建物と家財が補償される保険の料金。2万円程度が相場だが、補償範囲によって異なる。賃貸借契約時に加入を求められることが一般的。 |
仲介手数料 | 物件を紹介してくれた不動産会社に支払う手数料。家賃の1カ月分と消費税が上限。 |
入居工事費用 | オフィスの用途に応じた配線工事や内壁の設置など。工事が可能な範囲は物件ごとに異なり、費用も数十万~数百万円まで幅がある。 |
家具・設備費用 | デスク、チェア、コピー機、パソコン、サーバーなどの購入費と設置にかかる費用。 |
レンタルオフィスは家具や機器が一通りそろっており、配線なども完備されていることから内装工事も不要です。敷金・礼金が不要な場合も多いため、初期費用を抑えられます。
レンタルオフィスは、複数の企業が利用することで収益を得る必要があるため、比較的好立地で運営されている傾向にあります。そのため、利便性が高く従業員のモチベーションを保ちやすい場所でオフィスを構えられるでしょう。
ただし、駅から遠い立地などで賃貸オフィスを構えるよりは、家賃が高額になることも少なくないため、好立地であることが必要か検討が必要です。
自宅で仕事をしている個人事業主の場合、自宅で登記することも可能ですが、住所を公開することになります。レンタルオフィスで法人登記すれば、自宅とオフィスを分けられるためプライバシー保護に有用です。
なお、登記・公開の必要がないフリーランスなどであれば、バーチャルオフィスもおすすめです。
登記可能なレンタルオフィスでは、法人登記のサポートサービスを提供している場合があります。相談すれば登記手続きの流れを教えてもらえたり、代行可能な専門家を紹介してもらえたりするので手続きをスムーズに進められるでしょう。
そのほか、電話代行や受付、郵便物の受け取りなどレンタルオフィスごとにさまざまなサービスがあります。利用料金とサービス内容のバランスを総合的に判断して選びましょう。
レンタルオフィスで法人登記する前に確認しておきたい2つのデメリットを紹介します。
レンタルオフィスを提供している事業者が廃業すると、オフィスを移転せざるを得ない状況になるでしょう。そうなると、新たなオフィス探しや移転登記、税務署への届け出などをおこなう必要があり、予想外の手間がかかってしまいます。
このような事態を避けるために、レンタルオフィスの運営会社の経営状況を調べておくことをおすすめします。
レンタルオフィスで登記した場合でも銀行の法人口座開設は可能です。ただし、詐欺やマネーロンダリングに口座が使われることを防ぐため、金融機関の審査基準が厳しくなっている点には注意が必要です。
起業したてでレンタルオフィスを利用したい場合でも、口座開設の審査には事業内容や資本金、代表者の経歴などが問われます。これらの資料はしっかりとそろえておきましょう。
また、マイナーなレンタルオフィスの場合は審査に影響する可能性があります。法人口座を開設したいのであれば、大手のレンタルオフィスを選ぶことをおすすめします。
レンタルオフィスで法人登記する方法を3つのステップに分けて解説します。
すべてのレンタルオフィスが法人登記に対応しているわけではありません。まずは法人登記が可能なレンタルオフィスを探しましょう。
レンタルオフィス検索のポータルサイトを利用するのもひとつの方法です。条件を入力すれば候補が抽出されるので、広さや立地、利用料などでも絞り込み、希望条件とマッチする物件を選びましょう。
法人登記に必要な書類は次のとおりです。
登記申請書:会社の基本情報、株式の譲渡制限に関する規定などを記載
登録免許税納付用台紙:収入印紙を貼る用紙
定款(ていかん):会社の根本原則を記載し、公証役場で認証を受けたもの
発起人の決定書:定款で本店所在地や代表取締役を記載していない場合
設立時取締役の就任承諾書:取締役就任を承諾したことを証明する書類
設立時代表取締役の就任承諾書:代表取締役就任を承諾したことを証明する書類
設立時取締役の印鑑証明書:取締役全員の印鑑証明書
資本金を証明する書類:資本金の払い込みがあったことを証明する書類
印鑑届出書:法人実印の届出書
登記すべき事項を記録した書面または電磁的記録媒体
登記すべき事項には、設立、商号、役員に関する事項、新株予約権に関する事項など多数の項目があります。法務省のホームページで確認しましょう。
本店所在地(オフィスを構える場所)を管轄する法務局に各種書類を提出します。窓口のほか郵送やオンラインでも申請可能です。
書類に不備がなく、登記の条件を満たしているなど問題がなければ、申請受付から7~10日で法人登記が完了します。ただし、不備があると差し戻されるため期間には余裕をもって申請しましょう。
サービスによって法人登記が可能かどうかは異なりますが、レンタルオフィス以外の選択肢としては次の4種類があります。
バーチャルオフィス
シェアオフィス
コワーキングスペース
サービスオフィス
それぞれのメリット、デメリットとともに確認しましょう。
住所と電話番号を貸し出し、仮想のオフィスとするサービスです。仮想のオフィスなのでワークスペースはありません。法人登記が可能なバーチャルオフィスの相場は月額1,500円~です。
メリット | デメリット |
・会社用の住所と電話番号を取得できる ・初期費用、維持費ともに安価 ・短期間で利用開始できる | ・社員が集まれる場所がない ・運営会社が撤退した場合、住所と電話番号を失う ・独立した事務所が必要な業種では利用できない(不動産、建設、士業など) |
バーチャルオフィスは従業員がいない場合やテレワークのみの場合におすすめです。
同じ空間と設備を複数社で使用するオフィスで、会議室や受付、電話代行などのサービスが付帯している場合があります。シェアオフィスの賃料は都内でも20,000円~と賃貸オフィスに比べて安価です。
メリット | デメリット |
・初期費用、賃料を抑えられる ・ワークスペースを確保できる ・入居者(他社)同士のコミュニケーションを取りやすい ・好立地が多い ・時間貸しなど契約の種類に幅がある | ・仕切りがないため機密性が高い情報を扱う仕事では利用しにくい ・資料や自社専用の備品をデスクなどに置いておくことはできない |
セキュリティを重視する業務には不向きですが、他社との交流の機会をもちたい場合にはおすすめです。
フリーアドレス制のオフィスで利用者が好きな座席で仕事ができるサービスです。個人の利用者が多く、1人あたりの月額利用料は5,000~30,000円が相場です。
メリット | デメリット |
・初期費用、賃料を抑えられる ・ワークスペースを確保できる ・テレワークの従業員の作業場として使える ・好立地が多い ・時間貸しなど契約の種類に幅がある | ・仕切りがないため機密性が高い情報を扱う仕事では利用しにくい ・資料や自社専用の備品をデスクなどに置いておくことはできない ・1人あたりの単価としては安くないため従業員が多い場合には向かない |
自宅では集中できない場合やインターネット回線、コピー機などの設備を利用したい人におすすめです。
レンタルオフィスやシェアオフィス以上のサービスが付帯しているオフィスです。事務代行や事業サポート、ITサービスなどがあります。
メリット | デメリット |
・初期費用、賃料を抑えられる ・設備やサポートが充実している ・事務代行を依頼できる場合がある ・事業相談できる場合がある ・入居者同士の交流会が開かれることがある ・セキュリティを重視したオフィスが多い | ・月々の家賃として考えると割高 ・利用用途・業種が限られる ・会議室は有料オプションの場合がある |
事業開始時にサポートを受けたい人や他社との交流を重視する場合、セキュリティに配慮したい場合におすすめです。
最後に、レンタルオフィスの法人登記に関する5つの疑問に回答します。
東京都内の場合は、人気エリアでも10万円以下のケースが多く見られます。1人用の場合は30,000~60,000円、2人用は50,000~10万円が相場です。ただし、新宿区や渋谷区などの主要駅に近いエリアでは10万円を超える場合もあります。
大阪府でも1~2人用の相場は東京都と同等の金額です。しかし、人気エリアの北区や中央区でも、10万円を超えるレンタルオフィスは少ない傾向にあります。
個人と法人で契約に必要な書類が異なります。表で確認しましょう。
個人 | 法人 |
・住民票 ・印鑑証明書 ・事業内容書 ・第三者保証人の住民票 ・第三者保証人の印鑑証明書 ・第三者保証人の顔つき身分証明書 | ・会社概要書 ・会社登記謄本 ・印鑑証明書 ・代表者または保証人の住民票 ・代表者または保証人の印鑑証明書 ・代表者または保証人の顔つき身分証明書 |
そのほか、職務経歴書が求められることもあります。なお、個人で契約後に法人化した場合は、法人契約に切り替えることも可能です。
できる限り内見することをおすすめします。広さが同じ物件でも、天井の高さや家具などの配置によって感覚が大きく異なるからです。
また、借りようとしているスペースへ足を運ばない限り、騒音の度合や動線の利便性まではわかりません。利用できる設備やラウンジスペースの雰囲気などもチェックすべきポイントです。
複数のレンタルオフィスを内見し、比較検討しましょう。
法人登記の住所変更のステップは次のとおりです。
株主総会、取締役会で移転を決議
本店移転登記の申請
法務局、税務署、年金事務所などへの各種届出
株主や取締役がいる場合、まずは移転の決議が必要です。承認を得ない限り、代表者の独断で移転することはできません。なお、移転先が現在とは異なる市区町村の場合、定款の変更も必要です。
移転後は2週間以内に法務局に登記申請する必要があります。そのほか、税務署や年金事務所、労働基準監督署などへの各種届出もおこないましょう。
資本金は1円でも法人登記できますが、金融機関の口座開設では資本金が少なすぎると審査を通過できないリスクがあります。3カ月から半年分の運転資金相当の金額を資本金とするのが一般的です。
ただし、多ければよいというわけでもありません。資本金が1,000万円以上になると初年度から消費税が免税されない、1,000万円を超えると下請法の親事業者になるなど影響があります。
また業種によっては、資本金と資本剰余金などを合わせた純資産の金額が定められているため注意が必要です。判断に迷ったときは司法書士や税理士などのプロに相談しましょう。
レンタルオフィスでも法人登記が可能です。サービスによっては法人登記のサポートをしてくれるため、自分だけで手続きするよりもスムーズに進められるでしょう。
ただし、レンタルオフィスを選ぶときは、運営会社の経営状況やスペースの実態など確認すべきポイントがあります。内見するまでわからないことも多いので、料金や広さなどだけで選ばないようにしましょう。
また、法人登記の手続きは申請から7~10日ほどを要するため、書類などの準備期間も含めて余裕をもって進めることをおすすめします。
サービスオフィスを複数棟、比較検討できます。
気になる物件を選び、条件や設備などの違いを確認してみましょう。一覧表で比較ができる便利な機能です。比較資料としてご利用ください。