オフィスの生産性向上を目指すなら、複数の方法を組み合わせて環境改善をすることが大切です。この記事では、集中しやすい環境の構築、コミュニケーションの活性化、ムダを省く方法など効果的な10選を紹介します。プロセスや成功事例も解説するので参考にしてください。
オフィスの生産性を高めることが課題とはわかっていても「どうすれば向上するの?」「会社によって違うのでは?」と具体的な対策がわからない人も多いのではないでしょうか。
たしかに会社ごとの事情に応じて異なる対策も必要ですが、どのような会社でも共通でおさえるべきポイントと実行しやすい対策はあります。この記事では、オフィスで生産性を高める3つのポイントと10個の改善方法を詳しく解説します。
具体的な対策を実行する前の準備や注意点も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
生産性向上が求められる背景には、諸外国と比べて日本の生産性が低いことがあげられます。公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」によると、OECD加盟38カ国中、日本の時間あたりの労働生産性は27位、1人あたりの労働生産性は29位でした。
加えて、日本は少子高齢化により労働人口の減少が深刻化しています。時間あたりまたは1人あたりの生産性を向上させない限り、各企業の生産力が著しく低下するといえるでしょう。
これらの状況を打破し、国際競争を勝ち抜くための生産性向上は急務の課題です。
具体的な対策を検討する前に、おさえておくべきポイントを確認しましょう。
1つ目のポイントは、従業員の集中力を持続させる環境か否かの確認です。次の条件を満たしていない場合、集中しにくい環境だと考えられます。
オフィスの広さ÷人数=10~15平米
十分な座席間隔
各スペースへアクセスしやすい動線
圧迫感のない会議室
騒音がない
場面に応じた空間がある(会議室、オープンスペースなど)
整理整頓されている
快適なデスクと椅子
通路や休憩スペースなどを含むオフィス全体の広さを人数で割ったとき、1人あたり10~15平米相当であれば適切です。圧迫感がなく、広すぎることによる閑散とした雰囲気にもなりづらい広さといえます。
また、求めるものへ最短でアクセスできる動線の確保と整理整頓、身体的ストレスのない家具の選定も重要です。環境改善方法10選で詳しく見ていきましょう。
集中力の持続時間には所説あり、個人差もありますが一般的には45~90分といわれています。差はあれど何時間も続くわけではありません。
そのため定期的に短時間でもリフレッシュできる環境を構築することが、生産性を高めるための重要なポイントといえます。
なお、勤務時間中だけでなく、終業から翌日の始業までの時間(勤務間インターバル)の確保も大切です。厚生労働省は勤務間インターバル制度の周知と導入を促進しており、令和7年までに15%以上の企業が制度を導入することを目指しています。
厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、離職理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」をあげる人の割合が大きいことがわかりました。
つまり、円滑かつ適切なコミュニケーションを取らない限り、人材を確保しても離職してしまうリスクが高く、生産性が低下するということです。また、離職まではいかないとしても伝達ミスやアイデアの消失につながります。
健全な人間関係の構築には、日頃の気軽なコミュニケーションが欠かせません。しかし、コミュニケーションの改善は1つの対策だけでは実現できないため、多角的に考える必要があります。具体策を見ながら検討しましょう。
ここからは、環境改善のための具体的な方法10選を紹介していきます。
「オフィスの広さ÷人数=10~15平米」を確保できていても、執務スペースが十分にない場合は従業員がストレスを抱えやすくなります。職種別の適正な座席間隔を表で見てみましょう。
職種 | 適正な座席間隔(幅×奥行)(cm) | 理由 |
営業職 | 100~×60~70 | 外出が多いこと、小型ノートPCが主流なため、コンパクトでもストレスを抱えづらい。 |
内勤スタッフ | 120~×60~70 | 座席で過ごす時間が長いため広めのスペースが必要。大型PCを置くスペースも必要。 |
技術職 | 160~×70~80 | フルサイズキーボード、各種パーツ、機材、書類などを置くスペースが必要。 |
ただし、上記のスペースはあくまでも目安です。企業ごとに使用するPCの大きさや各種機材・書類の量などに違いがあるため、従業員が快適に仕事ができるスペースを検討するよう努めましょう。
また、役職者については個別面談が可能な個室の設置、重要書類の保管場所を別途設けるなどの対応が適切な場合があります。
オフィスを行き来する際のストレスがないよう、動線の確保も重要です。次のポイントを意識しましょう。
メイン動線とサブ動線がある
袋小路がない
余分な動線がない
目的別に必要となるものが同じ場所に集約されている
人の往来が多い出入口へつながるメイン動線は、最低でも2人分の横幅がとれる程度に広くとりましょう。サブ動線はメインから派生する動線です。入った先が袋小路にならないよう、回り込める動線を確保すると移動のストレスを軽減できます。
ただし、動線を作りすぎても不便です。目的の場所へのルートを認識しやすいように余分な動線は減らし、執務スペースを広くとりましょう。また、資料や機材は使用目的に応じた場所にまとめておくことで、行き来の回数を減らせます。
各従業員の執務スペース(座席)とは別に、特別な場合に使用できる集中ブースを設置することをおすすめします。集中スペースの具体例は次のとおりです。
話し声や騒音が極めて少ないエリア
各デスクがパーティションで仕切られたエリア
防音ワークブースの導入(サブスクサービスなど)
日頃から集中ブースのような執務スペースにするとコミュニケーションが遮られやすくなりますが、特別に集中したいときに使えるブースがあると便利です。
オフィス内にカフェテリアやジム、仮眠室などを設置する企業が増えてきています。短時間であっても質の高い休憩ができれば、心身ともにリフレッシュできて集中力が回復しやすくなるためです。
また、リフレッシュスペースでは他愛ない会話が生まれやすいというメリットもあります。コミュニケーションの改善やアイデアの創出などのきっかけになるでしょう。
バイオフィリアは直訳すると生命愛のことです。植物や生き物と触れ合うことでストレスが軽減する現象をバイオフィリア効果と呼びます。具体的には次のような導入事例があります。
観葉植物の設置
壁面・天井の緑化
アクアリウムの設置
猫や犬などのペットと出社
自然を感じるBGM(川のせせらぎ、鳥の声など)
森林を思わせるフレグランス
設置スペースがない場合はリフレッシュスペースの家具を木目にするなど、少しでも自然を感じられるものを置くようにしましょう。
長時間のデスクワークは腰や肩をはじめとする全身に負荷がかかります。疲労は生産性を下げるため、人体工学に基づいて設計された快適な家具を導入することが大切です。
また、従業員の体格によってなにが最適かは異なるため、誰でもある程度快適に使える家具を選定しましょう。具体的には次の通りです。
家具の種類 | 快適なポイント |
椅子 | ・メッシュ素材 ・フットレスト |
デスク | ・幅120cm以上 ・奥行80cm、高さ70~72cm |
デスク周り | ・リストレスト |
オフィスは室温25度、湿度50%がもっとも生産性が高まるとされています。ただし、これはクリエイティブな作業や共同作業が多い職場の場合です。事務作業については適温が22度といわれています。
なお、室温が適温であっても、湿度が40%未満または70%を超えると生産性が下がります。エアコンで室温を調整することはもちろん、サーキュレーターで室温を均一に保つこと、加湿器や除湿器で湿度を調整することも大切です。
フリーアドレスは固定の座席をもたず、従業員が自由な座席を選んで使えるというオフィスのスタイルです。オフィス内の勤務ではあるため、在宅やカフェで仕事ができるリモートワークやABWといった用語とは意味が異なります。
フリーアドレスを採用する大きなメリットは、必要に応じた空間を確保しやすくなること、コミュニケーションの活性化を期待できることです。また、リモートワークとの組み合わせで出社率が100%未満になれば1人あたりのスペースも増えます。
評価制度が明確ではない職場では、何をすれば給与や待遇に反映されるかがわからないため従業員のモチベーションが低下しがちです。
そこで給与やポジションに応じて求められるスキルや実績をリスト化しましょう。達成した項目と課題となる項目を、評価する側とされる側の双方で確認できるため、評価に納得しやすくなります。
ただし、業務内容が明確でなければ評価しづらいため、ポジション別の業務やフローを明確化することも同時に必要です。また、成果だけでなく勤務態度や他者への影響力を評価する項目を設けると、従業員が納得しやすくなります。
DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術・データを活用してビジネスを変革することを指します。アナログのシステムや資料をデジタル化することに留まらず、業務そのものの変革を意味します。
具体的には、顧客の悩みや課題を入力すると、対応可能な自社製品が提示されるAI機能、顧客情報にもとづいてDMを送れる会員カードアプリの導入などです。
従来の方法では人の手と時間を奪っていたことを一部でもデジタルにまかせられれば、時間の余裕が生まれます。これによって、従業員が人にしかできない仕事へ注力できるようになれば、生産性が向上するでしょう。
オフィス改善の具体策を実行する前に考えておきたいことを見てみましょう。
オフィス改善をトップダウンで推し進めることは最善とはいえません。企業風土や制度が大きく変わることを実行する場合、反発が生まれてスムーズに進まなくなるためです。
また、従業員が直面している課題にフィットする改善策のほうが、進めやすいといえます。そのために、まずはアンケートなどで従業員の意見を吸い上げ、分析しましょう。
ただし、表面化している課題が複数あっても、原因は1つに集約されることが少なくありません。意見の表面を見るのではなく共通項を見極めて、原因に対処できる方法を考えることが大切です。
中小企業を対象とする補助金・助成金制度があります。次の表を参考に、活用できるか確認しましょう。
補助金・助成金名 | 管轄 | 対象・条件 | 助成額 |
業務改善助成金 | 厚生労働省 | ・中小企業、小規模事業者 | 最大600万円 |
IT導入補助金 | 中小機構 | ・中小企業、小規模事業者 ・ITツールの導入にかかる費用の2分の1まで補助 | 最大450万円 |
小規模事業者持続化補助金 | 商工会・商工会議所 | ・小規模事業者 | 最大250万円 |
ものづくり補助金 | 全国中小企業団体中央会 | ・中小企業、小規模事業者 | 最大1,250万円(通常枠) |
創業助成金 | 実施している自治体 | ・開業から5年未満など | 自治体によって異なる |
事業継承補助金 | 事業承継・引継ぎ補助金事務局 | ・中小企業、個人事業主 | 最大400万円(当初予算、補正あり) |
オフィス移転支援 | 実施している自治体 | ・県内、市内などへオフィスまたは本社を移転した場合 | 自治体によって異なる |
オフィス環境改善のプロに依頼するのも1つの手です。これまで見てきたポイントのほかに、プロならではの視点で改善策を提案してくれます。具体的には次のようなポイントです。
配線
消防法や地震への対応
感染症対策
適切な明るさの照明
オフィスの間取りを最大限活かせるレイアウト
目的に応じた空間デザイン
デザインから内装工事、各種機器の手配まで一貫して任せられる業者もあります。エリア対応の専門業者を探してみましょう。
最後に、オフィスの生産性を高めたいときに気になる疑問3つに回答します。
目的を果たす手段としてのオフィス移転であれば、効果的な場合があります。つまり、目的ありきです。また、現在のオフィスで目的を果たす術がないのかを十分に検討したうえで実行することをおすすめします。
たとえば、目的が従業員1人あたり10~15平米の確保だとします。計算上オフィスの広さが足りていないのであればレイアウトを工夫しても解決できないため、広いオフィスに移転することは効果的です。
一方、計算上は足りているのに狭いと感じられる場合、資料のデジタル化や物品の処分、レイアウトの変更で改善できる可能性があります。目的に応じた最適解を検討しましょう。
施策実行後の失敗に対処するのは、コストの面から言っても困難です。事前に対策する必要があります。施策が失敗するときに考えられる原因は次のとおりです。
目的を設定できていない
業務内容、問題点を明らかにできていない
現場の合意をとれていない
目的を明確に伝えないまま従業員や業者に丸投げしている
コストを見積もっていない
課題の根幹が見えておらず目的を明確に設定できない状態で施策を実行した場合でも、表面化している問題には対処できるでしょう。しかし、細かな問題への対応だけでは根幹が解決せず、いたちごっことなりコストは増すばかりです。
また、常になにかを改善しなければならない状態では集中しづらく、生産性も低下するでしょう。まずは現場へのヒアリングをおこない、経営側と従業員が目的を共有することが大切です。その目的を果たすための予算を決めて取り組みましょう。
具体的な成功事例を見て参考にしましょう。オフィスに限らず、さまざまな業種の事例を表にまとめました。
会社名 | 対策 | 効果 |
ニチバン株式会社 | 過去30年分の商品カタログ、FAQ、商品画像や動画をデジタル化しナレッジデータベースで共有 | 情報へのアクセスがスムーズになり、資料探しにかかる時間を減らせた |
株式会社みすずコーポレーション | 食品製造の作業手順とルールを変更、不良品への対策としてビデオ解析や清掃機器などのツールを導入 | 労働生産性は33%向上、廃棄ロスは42%低下 |
JALUXトラスト株式会社 | 従業員の10分間ごとの業務調査をおこない、職員の動きを可視化してムダを発見、対処した。 | 専門職と一般職の業務を明確化し、業務分担を整理したことで1人あたりの労働時間は削減、生産性は33%向上 |
西川産業株式会社 | 店舗にビデオ解析ツールを導入し、ハイパフォーマーが無意識におこなっているノウハウを顕在化、共有した | ノウハウを共有した店舗における成約率が平均9%増加 |
株式会社メルカリ | 評価制度をOKR(注1)とバリュー評価の2軸で実施。四半期ごとに評価、表彰制度を設ける。 | 会社と個人の目標のすり合わせが可能となり、コミュニケーションや挑戦の機会が生まれやすくなった |
ノウハウや情報の共有、AIツール導入による人力作業の削減、評価制度の整備がもたらすモチベーションアップなど、生産性向上にはさまざまな手段があることがわかります。企業が抱える課題に応じて効果的な方法を選択しましょう。
注1)OKR:Objectives and Key Results(目標と主要な結果)の略。目標に対する結果を定量的な指標(数値)ではかる評価の仕組み。コミュニケーションの改善や目標設定の時間の短縮、貢献度を実感しやすいなどのメリットがある。
オフィスの生産性向上を目指す場合、1つの対策だけで絶大な効果をもたらすことはできません。
従業員がストレスを抱えづらいレイアウト、適切なパーソナルスペースの確保をはじめ、作業の自動化やリフレッシュスペースの配置など休息の確保も重要です。また、モチベーション維持のためには評価制度や会社方針の共有も欠かせません。
まずは現場へのヒアリングをおこない、業務内容と課題を分析・明確化、原因追求をしたうえで、効果的な対策を選択しましょう。
サービスオフィスを複数棟、比較検討できます。
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